多様な三重県の姿を、多様な見せ方でアプローチ[三重県総合博物館]

三重県総合博物館

 エントランスを過ぎると、いきなり土砂降りの雨に見舞われた。もちろん、本当に雨がしたたっているわけではない。
 目の前には猛烈に降る雨の映像、その向こうには鬱蒼とした森林が広がっている。
 ここは、2014年4月に三重県津市にオープンした三重県総合博物館の「基本展示室」(常設展示)。この雨の演出は、国内屈指の多雨地帯である三重の大台ケ原を紹介するコーナーだ。

三重県総合博物館

 ついで、目を引くのが、見上げるような岩山に立つカモシカだ。
 このように、ここは展示空間を活かしたジオラマが人目を引く。単に大がかりなだけではなく、一つのジオラマで多様な説明をしている。
 例えばこのカモシカのジオラマでは、カモシカはもちろん、御在所岳をはじめとする鈴鹿山脈の植生や、樹氷や霧氷の形成、さらに脇には洞窟の入口部分が再現されており、洞窟の生物相の説明にまで至る。

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 展示されている自然史系のジオラマでは、一見見落としてしまいそうな、虫のような小さい生物まで含めて再現されている。この左写真は一見、ハマユウの展示に見えるが、ハマユウとともに分布する海岸性コオロギの仲間・イソカネタタキの説明を兼ねている(右写真の葉についているゴミみたいなのがそれ)。なぜハマユウと分布域が重なっているのかはよくわからないそうだ。

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 こちらも単なるカメの産卵シーンに見えるが、砂浜をよーく見ると、細かい部分まで手が加わっており、オオハサミムシ(写真右)やオサムシモドキ、ヒョウタンゴミムシ、ヤマトマダラバッタといった生物が細かく作り込まれている。

三重県総合博物館

 ジオラマを作る過程にもいろいろと工夫が施されているようだ。
 この3500匹のイワシは紙で作ってあるという。県内外のみなさんの協力で作られたと説明がある。
 よく見ると、小さい子ががんばって作ったようなイワシもあって、ほほえましい。
 みんなで作る展示とはなかなか考えられている。

三重県総合博物館 三重県総合博物館

 また、農村・山村・漁村を紹介するコーナーでは、県内各地のフィールドワークを映像とともに展示している。
 このコーナーは歴史時代の再現などではなく、あえて「現在の姿」を展示のメインに据えているところに大きな特徴がある。
 博物館とは単に古い物を集めるのではなくて、古くからあって今も続いているもの、あるいは現在変化しつつあるものも、その収蔵・調査の対象とする。調査に協力した人はもとより地域の人も「(自分たちの)何が収蔵や調査の対象となるのか、それがどのような意味をもつのか」というのがよくわかることだろう。
 そういう点でも意義のある「現在の展示」と言えるだろう。

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 そして三重県という土地柄、伊勢の展示も欠かせない。伊勢神宮そのものではなく、伊勢参りなどの「周辺」をフォローしている。写真は「伊勢みやげになった名物」。
——と思ったら、この伊勢名物のコーナー、縄文時代から始まっているゾ! 三重で産出する水銀の材料の辰砂が各地へ流通したそうだ。
 こういう展示も、展示する側の頭の中が、「人文系と自然史系」とか「先史時代と歴史時代」というふうに区分けして考えていたら思いつくことはなかったろう。この博物館の柔軟性を示す一品だ。

三重県総合博物館

 伊勢参りの御師(おんし)の家もジオラマで再現されている。御師は、江戸時代に伊勢講を組織した宗教的なツアーコンダクターで、御師の家は伊勢へ着いたツアーの人たちの宿舎でもあった。
 各地から伊勢講を組織してやってきた伊勢参りの人たちは、御師の家で旅装を解き、参拝の準備をする。床屋(髪結い)を呼んだり、裃を着用したりと大変そうである。
 御師の家の神楽殿で神楽が奉納され、広間では神楽膳が饗される。三の膳に向詰が2つ付いた本膳料理は、おそらく当時の庶民にとって経験したことのない最高のごちそうで、大いに非日常的空間を演出したことだろう。

三重県総合博物館 三重県津市の海岸部

 こちらは中世〜江戸の津の湊を再現したジオラマ。「津」という地名は港を意味することが多いが、この土地は伊勢湾に面した潟湖(ラグーン)で、中世には安濃津湊(あのつみなと)と呼ばれ繁栄した。
 写真下は現在の津の海側の景色。建物はもちろん様変わりしてるし、埋め立てで地形もすっかり変わってはいるが、それでもまだ覆い隠せない中世の面影感じることができる。

三重県総合博物館

 三重県というのは海があって山が深く、南北に長い。
 水深2000mの深海から標高1700m近くの山岳まで存在し、亜寒帯から亜熱帯までの生物種が生息する、多様な環境をもちあわせたエリアなのだが、その多様性を見せようという工夫に富んだ展示だった。

三重県総合博物館

 以上が常設の展示なのだが、博物館にはこのほかにもいくつかの展示コーナーがある。
 展示室を出たところにある「学習交流スペース」は、地域資料などを集めた図書閲覧コーナーなのだが、ここに「学芸員コレクション」なるミニ展示が設けられていた。
 同館の学芸員が専門分野にかかわらず集めたコレクションを紹介しているといい、タナゴ竿(タナゴ釣り専門の和竿。意匠を凝らした高級品が多い)、土鈴などが展示されているが、「Nゲージの新幹線コレクション」なるものまで出てきて驚く。
 しかし、博物館展示とコレクションは表裏一体なので、興味深い試みかもしれない(こういう各人のコレクションを展示するという、学芸員の自己紹介は見たことない…!)。

三重県総合博物館

 さらに、「三重の実物図鑑」。三重県で産出した化石や各種の標本、古文書などを展示している。
 基本展示室がジオラマを駆使して周囲の環境も含めて展示しているのに対し、こちらは標本や資料そのものを見せるスタイルだ。
 展示室内には「私たちはなぜ多くの標本を集めるのか」と題したパネルがあり、以下のように書かれている。

たとえば、若い個体と成熟した個体、オスとメスの違い、地域によって変わる色や形など(略)生きものを分類し整理していくためには、これらの変異を知ることがとても大切です。

いつ、何処に、どのような種が存在したかという情報は、将来、当時の環境を知るための重要な資料となっていきます。博物館の自然史資料の収集の目的は、単に集めて公開するだけではないのです。

と、標本そのものを観察させると同時に、資料収集の意義を説明するコーナーにもなっている。

三重県総合博物館

 加えて、野外に「ミュージアムフィールド」と呼ばれるスペースがある。
 古墳の石室や伊賀街道の道標(いずれも移設)の屋外展示に加え、人と関わりの深い植物が植えられ、植物園的な役割も果たす。
 何気ない遊歩道の敷石も展示品のひとつ(三重県津市美杉町産出の溶結凝灰岩など)だったりしてあなどれない。
 このエリアがおもしろいのは、写真のような舗装された道は途中までしかなくて、あとは林の中を自由に散策してよい(ただし虫などには注意すること)という点。「アベマキの林」「シイの林」など、原生林ではなく、人の手が入っている林だからこそできる展示スタイルだ。

三重県総合博物館

 博物館(写真奥の建物)が去年オープンしたばかりなので、ミュージアムフィールド自体は所々スカスカ感が目立つが、遠からず充実した展示ゾーンになっていくだろう。
 このほか、展示物が遊具のようなしつらいになっている「こども体験展示室」も開設されている。子どもがスロープやトンネルを出入して、見たり触ったりすることができるようになっており、歴史や自然に興味を持つきっかけ作りを狙いとしている。

 すでに触れたように、三重県というのは多様な姿を持っているエリアであるが、そこに建つ博物館自身も学芸員コレクションや実物図鑑、ミュージアムフィールドなど、多様な見せ方でアプローチしてきている博物館であった。

三重県総合博物館
住所 三重県津市一身田上津部田3060
TEL 059-228-2283
開館 9:00〜17:00(土日祝日は〜19:00/月曜、年末年始休館)
観覧料 大人510円、学生300円、高校生以下無料(企画展別途)
交通 JR紀勢本線津駅より徒歩25分、または津駅よりバス5分「総合文化センター」下車後すぐ
開館年 2014(平成26)年4月19日
ワンポイント 土日祝日は19時まで開館(入館は閉館30分前まで)しているので、夕方に訪れても見学時間がとれる。また、入口にあるミエゾウ(Stegodon miensis)は、日本初となる全身復元骨格の展示。