[感想後記]「博物館デビュー支援事業」の可能性を考える(前編)

学校教室

イメージ(撮影場所:府中市郷土の森博物館)

横浜市歴史博物館が中心となって進めている「博物館デビュー支援事業」なる取り組みがある。
2015年1月10日に、この事業に関連する教育フォーラム「第2回 学校に歴史資料室をつくっちゃおう!! フォーラム」が同館にて開催されたので、聴講してきた。

「博物館デビュー支援事業」とは、博物館にまだ行ったことのない子どもたちを主な対象とした、博物館への理解を深めるための取り組みである。その主な事業というのが、なんと小学校にある資料室の大掃除と整理なのだ。

学内に、農具や土器・石器などを集めた小規模な資料室を設けている小学校は少なくない。横浜市内の場合、341校のうち78校に歴史資料室を併設しているという(2014年5月現在)。
横浜市歴史博物館では、学校側の要望に応じて、これらの資料室の掃除や整理、展示、活用の方法について提案やサポートをしている。

肝心の「子どもたちの博物館デビュー」とは無関係な作業のようだが、担当学芸員は以下のように書いている。

一見,博物館へ足を向けることと整理には関係がなさそうに見えますが,ちゃんと理由があります。
私たちの歴史博物館は,春先には1日千人近くの歴史を学び始めた小学6年生が訪れます。にぎわう反面,展示模型の破損やマナー違反に対する一般の方からの苦情がふえるのもこの時期です。博物館に来ること自体が目的となっていたり,どんな施設かを知らなかったりと,せっかくの歴史学習の機会が十分いかされていないのではないかと感じます。
マナー違反への注意は必要なことですが,もっと大事なことは,子供たちや時には先生方に,博物館がどんな施設なのかを伝えることです。資料の収集や保存,展示や普及事業を行う博物館は,地域に開かれた学びの場ですが,この「博物館ってなに?」ということを伝えるために選んだのが学校内歴史資料室なのです。
(文化庁広報誌ぶんかる2014年7月号「博物館デビュー支援事業はじめました」より)

なるほど、学内にある資料室を活用して、あらかじめ「博物館とはなにか?」ということを知っておけば、校外学習で博物館に来た時も、何をどう見ればよいのかがわかるだろう。

とはいえ、この事業は「博物館デビュー」という言葉が使われているものの、単に、博物館(をはじめとする公共施設)へ行って、行儀よく拝聴して帰ってくるということだけを目的としているわけではあるまい。
この試みはたんに子どもたちを博物館に親しませるというだけではなく、『資料』すなわち「過去の蓄積や先行事例から何が学べるか」ということを幼いうちから体得させるという、非常に重要な役割を帯びているように思う。

「過去の蓄積や先行事例から何事かを学び取る」能力は、たんに考古学者や歴史学者にのみ必要とされるものではない。
例えば、××地域に新規店舗を出店した時のデータを今度○○地域に出店する時に活かせるかとか、昨夏のキャンペーンでこれだけの売り上げがあったが、今夏はどれだけ見込めるかなど、様々な出来事の羅列から参考になる事例を見いだす能力は、ビジネスをしている人であれば当たり前のように求められる。
そういう思考能力の礎は、「資料というものから何が学べるか」というトライアルを幾度となく経ることによって培われていくものだろう。

たまに「博物館なんか見ようとも思わないし、そこから何が学べるかなんて考えたこともない」という大人の方がおられる。おそらく幼い頃、学校教育で行った博物館にいい思い出がなかったのかもしれないが、これなど、「過去の蓄積や先行事例から学ぶ」という能力をのばす上で、大きな機会損失なのではないだろうか。

もちろん、その方が受けた、その当時の校外学習のやり方がよくなかったのかもしれず、そこは常に改善していく必要はあろう。
だが、「博物館デビュー支援事業」は、学校内にある歴史資料室を稼働させて、先行事例から考えるという「場」を校内に設けるわけで、その意義はかなり大きいように思われる。

(後編へ続く)