ちいさなさかながつくった、おおきなはくぶつかん[いのちのたび博物館]

かつて北九州には、西日本最大級と自負していた「北九州市立自然史博物館」があった。これが2002(平成14)年に人文・歴史系も含め、総合博物館としてオープンしたのが、この「いのちのたび博物館(北九州市立自然史・歴史博物館)」だ。オープンの時、かつての西日本最大級という修飾語は日本最大級へとスケールアップしていた。


館内に入るとひな壇を細長くしたような展示フロアが、はるか奥の方まで続いている。1段目は地球の誕生から古生代まで、2段目は中生代、3段目は新生代、と階段を上っていくごとに時代が新しくなっていく仕組み。
ひな壇と言ったが、ひとつのは、ちょっとしたデパートの1階分ぐらいはある広大なもの。その段を延々と歩きながらひとつずつ上がっていくと、なにやらフランスかロシアの王宮にでも来て、これから拝謁を受けるのだという気分にすらさせてくれる。

各フロアーには王様の…じゃない、北九州市のコレクションがずらり。例えば「中生代」のフロアーでは、ティラノサウルス、アロサウルス、ステゴサウルス、トリケラトプスの骨格標本がひしめき、さらに復元・組立が行われた恐竜としては最大という、体長は35mのセイスモサウルスが、その長い首をもたげている。

そしてフロアーの両脇には侍従が…じゃなくて、「ぽけっとミュージアム」と呼ばれる、学校の教室ほどの小展示室がいくつも並ぶ。
そこでは、「昆虫標本」や「北九州のカエル」「世界の海の貝」「シーラカンス」など、テーマをしぼった展示が行われている。このコーナーは適宜展示替えが行われている。大コーナーのわきに更新しやすい小コーナーを設ける構成はなかなかうまい。

さて、コレクションはまだまだ続く。ひな壇の突き当たりになる「生命の多様性館」では、ジンベイザメやオナガザメ、キリン、シロクマ、タカアシガニ、イヌワシなどの剥製が分類ごとに鎮座している。日本最大のウバザメの標本(8・3m)や全長3・3mの標本としては世界最大のマンボウなどが、潤沢なスペースを活かして惜しげもなく展示されている。

ついつい大きなものばかりに目がいってしまうが、例えば、オキナエビスという古生代から生息している貝や、日本に生えている14種類のカエデなど、小さな標本にも学術的意義が付与されて陳列されているから見逃せない。

いずれにしても、世界各地から珍なるものが王室に献上され、それが原型になって出来上がったというヨーロッパの博物館を彷彿とさせる品揃えである。

そしてやはり目玉は、王室(?)ご自慢の「エンバイラマ館」だろう。

「エンバイラマ館」は中生代・白亜紀の北九州を再現した360度体感型のジオラマだ。入口で音声ガイドを付けて、館内へ。
内部はドーム形のジオラマで、トンネルをくぐってその真ん中に我々は出てくる。

マメンチサウルスが、裸子植物の一種・ディクチオザミテスの葉をついばもうと長い首を動かす。虫の鳴き声が響く草の茂みからベロキラプトルが突然の登場だ。崖の上から咆吼するワキノサトウリュウは福岡県で発掘された大型肉食恐竜。
このあたりの恐竜たちの復元や動作の考証にどれだけ手間がかかったかは、エンバイラマ館を出たところにある「リサーチゾーン」で縷々解説をしているので、マニアならずとも覗いておきたい。

さて、このようなキャストを前に、夕方から明け方に至るまでの白亜紀の情景が明かりと効果音によって演出される。

この夕方から朝というのがミソで、薄明かりのなかだと恐竜の動きもリアルに感じられよう。なによりも我々哺乳類の遠い祖先も、おそらく初めは、恐竜の目を盗み、息を殺しながら、夜中にこそこそと行動していたに相違なく、「恐竜がいる夜のシーン」というのは我々の祖先の労苦をしのぶのに打ってつけといえる。

じつはこの博物館で、一番威張っていい化石がある。体長ほんの数センチほどの小魚の化石「ディプロミスタス」だ。

1976(昭和51)年、北九州市の山田緑地で見つかった中生代白亜紀の化石で、化石自体は専門家の手によって昔の論文に報告されていたそうだが、1974(昭和49)年に山遊びをしていた小学生が、たくさん見つかる場所を発見し、76年に発掘調査が行われた。
その結果、恐竜時代のニシンの仲間の淡水魚化石とわかり、これがきっかけとなって博物館建設の機運が高まってゆく。1981(昭和56)年には「北九州市立自然史博物館」がオープン。さらにその館を発展させて、この王室のコレクションのような大博物館ができあがった。すべてはこの小魚から始まっているのである。

彼は、巨大フロアーの脇にある「ぽけっとミュージアム」で、実にひっそりと展示されている(写真)。
もし、ここの標本をすべて擬人化すると、この「ディプロミスタス」は、執事がイスに腰掛けるように目立たず物静かにふるまっていると思われる。そうして、「この王宮で一番偉い方です」と紹介されて仰天する我々を、軽く一瞥して、また手元の本に目を落とす、といったふうな人物ではなかろうか——と、そんなことを妄想するぐらい慎ましやかな展示だった。

いのちのたび博物館 北九州市立自然史・歴史博物館
住所 福岡県北九州市八幡東区東田2-4-1
TEL 093-681-1011
入館料 大人500円(企画展別途)
交通 JR鹿児島本線スペースワールド駅より徒歩5分