琵琶湖を丸ごとつめこんだ! [琵琶湖博物館]

琵琶湖博物館

 日本最大の湖にして、世界有数の古さを誇る琵琶湖。その湖畔に、琵琶湖をテーマにした琵琶湖博物館が建つ。
 古代から現代に至るまでの自然史や歴史を紹介しているのだが、琵琶湖という入れものを、自然科学から人文科学、社会科学まで総動員して表現する様は、なかなか素晴らしい。

琵琶湖博物館

 遥か100万〜40万年前から琵琶湖に隔離され、独自の進化を遂げた琵琶湖固有の淡水魚。縄文〜平安の土器が完全な形のまま発見されている湖底遺跡からの出土品。琵琶湖の水運を担った丸子船の復元模型。琵琶湖に浮かぶ沖島の漁業の様子と島の四季の食卓。里山や田んぼにおける微生物の働き。昭和40年代後半から盛んになった合成洗剤追放運動のあらまし——などなど、実に多岐に及ぶ展示が「琵琶湖」という一点で結ばれて総合的に展開している。
 個別のテーマを追いたい人、琵琶湖全体を把握したい人、どちらにも対応している。

琵琶湖博物館

 どこから見ていってもいいのだが、筆者の好みで、まずは「淡水の生き物たち」の展示室へ。

 そもそも淡水魚というのは自分からひょこひょこと他の河川や湖沼へ移動することが出来ないので、その中で進化していくしかない。そのため、琵琶湖のような古い湖には固有種が多く住んでいる。同種が、中国大陸と琵琶湖にしかいないワタカなどは、かつて大陸とつながっていた時に分布を広げ、そのまま取り残されて独自の進化を遂げたいい例だ。琵琶湖の主というべきビワコオオナマズもどこかからやってきて、この湖に住み着いたのであろう。

 意外だったのは、日本各地で釣魚として知られるゲンゴロウブナ(ヘラブナ)が琵琶湖固有種ということだ。かつてはここにしかいなかったのが、いつの間にか全国を制覇してしまった。物の本によれば、ヘラブナの関東地方への移入は江戸時代初期の1658(万治元)年にまでさかのぼるという。水を浸したササか何かにくるまれて、てくてくと東海道を下ってゆく姿が目に浮かぶ。

 展示水槽もよく考えて造られている。水槽の向こうに、植え込みがあり、さらにその向こうに本物の琵琶湖が配されているのだ。これはもう、庭園でいう借景の域だ。

琵琶湖博物館 琵琶湖博物館

 今度はがらりと雰囲気が変わって、彦根市本庄町に住む冨江さんの家である。館内に、農家一軒が水回りも含めて丸ごと再現されているのだ。

 時代設定は1964(昭和39)年5月10日。上下水道が完備する以前の農家の水利用の仕方や当時の生活様式がわかるという展示だ。テレビはもちろん白黒。食卓には当時の食事が並んでいる。台所には最新式の電気洗濯機が置かれていたが、洗濯や調理などの水は川から引いてきている。

琵琶湖博物館 琵琶湖博物館・民家の2層の流し

 川から引いてきた水は2槽に分かれて上の槽(カミナガシ)は食器洗いなどにつかい、下の槽(シモナガシ)では野菜の泥落としなどをする、と分けていた(上の右写真)。
 最後の槽ではコイを飼っていることが多かったそうだ。このコイは、食器洗いの時に流れ出す残飯を餌にして育ち、家の祝事の際にはシメられて祝膳にあがったという。

 ここで、普通の博物館だったら槽が展示してあるだけで終わってしまうのだが、実際に水が流れ、本物のコイが泳いでいるのが、琵琶湖博物館の面目躍如たるところだ。水族館の機能も持ち合わせているからこそできる展示である。

現在の下水道

 この家には、ほかにも糞尿を肥やしにしたりとか、わずかなものをフルに活用しようという徹頭徹尾、合理的な精神が貫かれている。この冨江さん宅に比べれば、昨今の生ゴミ処理の「コンポスト」など、まだまだなのかも知れない。

 冨江さん宅と対比する形で、現在の上下水道の断面模型もある。洗剤や残飯、ゴミなど、何から何まで水に流してしまう様子を展示している。

琵琶湖博物館

 この展示は、妙に写実主義にこだわっている。特に、トイレに流されるもののところでは、じつに写実的なレプリカが(それも一個体や二個体でなく、多々)目につくのである。環境問題を訴える真摯な姿勢が印象的だ(?)。

 「琵琶湖のおいたち」のゾーンへ進み、ゾウの化石などを見ていると、なんとボーリング調査のプレハブまで復元されている。
 琵琶湖の地層調査での地下1000mに及ぶボーリング作業の展示で、ここまでやるか、という気もするが、調査・研究の現場ですら再現してしまうところに意気込みを感じる。ボーリング調査中のスナップ(みんなで弁当食ってたりする)のパネルもほほえましい。
 しかも、作業着やヘルメットが置いてあり「記念撮影をどうぞ」という。作業着を羽織ってみる。気分は「明和電機」だ(←違う)。

琵琶湖博物館

 で、こちらは「研究室」ではない。研究の現場の再現展示なのである。研究の展示は研究室らしいところで、という考えもしゃれている。

 パソコンのモニターもダテではない。パソコンかぁと思って通り過ぎようとすると、展示解説文が浮かんでは消えていくのだ。引き出しを開けるとそこにも展示があった。

琵琶湖博物館

 このコーナーに限らず、この博物館の解説文はどこからあらわれるかわからないので、あなどれない。

 冨江さんの家では物干しに干した布団やわきに置いてある洗濯板に、里山の展示では木の葉の吹き寄せに解説文があるのだ。なんと屋外のトイレのなかにまであった!
 職人魂(学芸員魂?)を感じさせてくれる。

水辺のくらしと琵琶湖の自然コーナー

 館内をまわって、「水辺のくらしと琵琶湖の自然」のコーナーに行くと、琵琶湖に浮かぶ沖島をテーマに、四季折々に獲れる湖の魚介類やその料理が模型で展示されている。
 ナマズのすき焼きやコイのあらいに卵をまぶした子付けなます、シジミの酢ぬたなどが並ぶ。樽で漬けているフナズシの断面模型まである。

 ここでさっき見てきた魚類の展示が思い浮かび、普通の水族館だけを見ているときに感じる物足りなさを補ってくれる。

フナズシの断面模型

 水族館は、魚がそこに「いる」というだけで終わってしまっている施設が多いが、その点ここは、その魚のいる海や湖というのは、どんなところなのか。どういう環境の中で育ち、また進化してきたのか。その魚は、地元の漁業や民俗行事とどう関わってきたのか——というようなもう一歩踏み込んだ展示を見せてくれるのだ。

 琵琶湖歴史博物館とか琵琶湖自然史博物館などの普通に考えられる文系理系のごとき枠組みで切らずに、琵琶湖そのものを、本来の博物という言葉通り、オールジャンルを包み込む強みで、すっぽりと丸ごとおおっているのである。
 「博物館」の長所がフルに活かされている施設といってもいい。

琵琶湖

 滋賀県でいう琵琶湖に相当するものは、各地域ごとにもあるだろう。博物館や資料館、水族館、植物園などが提携しつつ、それを表現するというスタイルをとれば、各地域毎に、この琵琶湖博物館のような魅力ある施設がつくれるのではないか。

 関東に住む筆者としては、葛西臨海水族園が老朽化した暁には、ぜひ東京湾博物館を建てて欲しいものである。

滋賀県立琵琶湖博物館
住所 滋賀県草津市下物町1091
TEL 077-568-4811
開館 9:30〜17:00(月曜、年末年始休館)
入館料 大人750円、高校〜大学生400円、小中学生無料(企画展示は別料金)
交通 JR東海道本線草津駅よりバス25分
ワンポイント ミュージアムショップにはビワコオオナマズをモチーフにしたぬいぐるみなどがひしめいている。館外には生態観察池、縄文弥生の森などがあり、散策に最適。