『世界の民家園』—岸本章著・鹿島出版会

世界の民家園

 民家園は、1891年に、スウェーデンのストックフォルムに開園した野外博物館スカンセン〔Skansen〕に始まるという。スカンセンとはその土地の丘の名前で、小さな砦といった意味だそうだ。農村の民家や生活が失われていくことに危機感を抱いた言語学者アルトゥール・ハセリウスによって設立された。
 実際の民家を用いて、民族衣装や生活様式を再現する展示手法は1867年のパリ万博などにも見られるが、これを常設の博物館で実現した画期的な野外博物館〔Open air museum〕といえる。

 この展示スタイルは、北欧からアルプス以北のヨーロッパやロシアへと広がっていった。東欧では「スカンセン」という言葉自体が野外博物館を指す一種の固有名詞として使われているという。
 これらの国々が主に木で家屋を造る「木の文化圏」であったことは興味深い。石造に比べて木造はうつろいやすい。そんなところが、家屋丸ごとの保存へと駆り立てるモチベーションになったのかもしれない。

 取り上げられている89か所の民家園のうち、ヨーロッパが東欧圏を中心に67、ロシア5、アメリカとカナダが計5、アジアが12(うち日本2)となっている。
 民家を紹介している本なので、個々の民家についての詳細な説明はないが、それでもパラパラとめくっていると、実に多様な家屋がヨーロッパに存在していることがわかる。
 日本の茅葺きそっくりなものから、校倉造り、日本では街道筋のドライブインによく見られるハーフティンバー、ゲゲゲの鬼太郎の家を彷彿とさせる樹上の食糧庫などなど。私たちが「欧米」という言葉でひとくくりにしてしまうエリアに実に多様な民家のスタイルがあることに気づかされる。

 また、各民家園の展示手法も興味深い。

・19世紀に飼育されていた古い品種の家畜約50種を飼育し、農村の匂いまでも再現しているデンマークのデン・フュンスケ・ランズビィ〔Den Fynske Landsby〕
・当時の夜がいかに暗かったかを体験する夜警ツアーを行う独ヘッセンパーク野外博物館〔Freilichtmuseum Hessenpark〕
・当時の衣装を着て、当時の言葉で話す人々がいる米プリマス・プランテーション〔Plimoth Plantation〕(これらの人々を同館はスタッフと呼ばず、ロールプレイヤーと呼んでいる)
・古い外観はそのままで内部を現代的にリフォームした古民家を、改修の見本としてあえて展示している、スイスのバレンベルグ野外博物館〔Freilichtmuseum Ballenberg〕
・園内をT型フォードが走り回る、米デトロイトのグリーンフィールズ・ビレッジ〔Greenfield Village〕

——などが登場してくる。全208ページのうち、カラーが10ページほどなのが惜しまれるが、多様な民家とさまざまな展示手法が紹介されている。