東海道屈指の富士山ビュースポット[薩埵峠(さった峠)]

薩埵峠(さった峠)

 旧東海道をちょっとだけ歩いて、いいとこ取りしようと思ったら、箱根旧街道などがあげられるだろうか。
 だが、ここも見逃すわけにはいかない。由比宿と興津宿の間に位置する高さ90mの薩埵峠だ。歌川(安藤)広重の「東海道五十三次・由比宿」にも描かれた富士山ビュースポットである。

 東海道本線を由比駅で降り、駅前の道を西へ向かう。道の先の方に小高い山が見えてきた。150mほど進むと車道をまたぐ小さな歩道橋がある。これを渡って、山側に併走する細い道へ入ろう。

東海道名主の館 小池邸

 一目でそれとわかる古い道で、格子戸のある家も散見されて、街道気分を盛り上げる。途中には休憩所としても利用できる「東海道名主の館 小池邸」(入館無料)がある。明治の築だが、江戸時代の名主宅の面影を残しているという。
 道の両側には民家が建ち並ぶ。左が海、右が山。山側は民家の背後にまで急峻な崖が迫っている。その崖から滑り落ちてきたのか、所々に小さな川が生じ、それが街道を横切る。道は小さな橋でその流れをまたいでいくのだが、その時、左側にパッと視界が開け、まぶしいほど青い色をした駿河湾が目に飛び込んでくる。

由比・西倉沢地区(右が薩埵峠への道)

 そんなわけで、橋があるたびに「パッと来るゾ」とわくわくしてしまうのだが、そんなことをしながらもう2kmも歩いただろうか。さっきからほとんど平らで一向に標高を稼いでいない。一体、峠越えはいつから始まるんだろう? とちょっと不安になってきた頃、西倉沢地区にさしかかり、右側の斜面にとりついて急登する細い道が登場する。

薩埵峠へのルート

 これが目指す薩埵峠へのルートだ。道はさっきまでの平坦さがうそのようにぐいぐいと斜面を登り始める。
 乗用車一台がやっと通れるくらいの道の両脇はミカンやビワの木が植わり、その合間を縫うようにミカン運搬用のリフトが敷かれている。
 だいぶ登ったところで、一息ついて振り返ると、駿河湾の向こうに富士山が浮かんでいる。

薩埵峠へ向かう道からの眺め

 眼下にはJR東海道本線と国道1号線、そして東名高速道。時に橋脚で海に身を乗り出すようにして走っている。
 橋脚の下の海面に頭のようなものが見えるので何かと思ったら、テトラポッドの先っぽだった。江戸時代には、峠の下の海でアワビをとる海女の姿が見えたという。アワビやサザエは先ほど通ってきた西倉沢の茶屋の名物だったそうだ。

薩埵峠(駐車場からの眺め)

 やがて薩埵峠に到着。ここは駐車場やトイレが完備されている。
 この峠から興津側へは、車の通れる道と歩行者専用の遊歩道との2種類の道が通っている。ここは断然、遊歩道を通ろう。

 車で来た人は、この駐車場からの眺め(写真右)で満足して帰ってしまう人が多いようだが、遊歩道をほんの5分歩いた所にも展望台がある。ここからは、先程来の駿河湾+富士山に加え、東名高速道が国道1号線をまたぐスペクタクルが楽しめる(写真下)。

薩埵峠(遊歩道の展望台からの眺め)

 高速と国道の2本の大動脈をひっきりなしに車が往来し、たまに脇の線路を3両ぐらいの列車が走り抜けていく。
 思わず「新幹線はどこだろう?」ときょろきょろ探してしまったのだが、新幹線はこの2kmぐらい山奥をトンネルであっさりと走り抜けてしまっているのだった。
 由比からの登りは車も兼用の道だったが、ここからは完全に遊歩道になる。

薩埵峠遊歩道

 ミカンもどんどんフレンドリーになって歩道側へせり出してくる。時としてくぐり抜けながら歩くような箇所もある。
 そんなミカンとふれあいたければ、シーズンにはところどころの無人スタンドで売られている。筆者が訪れたのは1月だが、びっくりするほど甘かった。

 陽が少しずつ西に傾いてきた。日陰に入るとさすがに寒いが、山の襞に沿って進む遊歩道は時々ぽっかりと陽だまりを用意してくれている。
 水仙が咲き、駿河湾がゆったりとうねっている。据え付けられた簡単なベンチが特等席のようだ。江戸時代ならば、茶屋を営業していれば繁盛しそうな場所だ。

薩埵峠遊歩道

 薩埵峠を通る東海道は山上を通る「上道」、山腹の「中道」、海沿いの「下道」と3本に分かれ、時代によってメインとなる道が異なっていた。
 特に海沿いの道は「親知らず子知らず」と呼ばれた難所だったという。同じ名前の難所が、ちょうどフォッサマグナを挟んで反対の日本海側(新潟県糸魚川市)にあるのもおもしろい。

薩埵峠

 峠から眼下を覗いてみた限り、それほどの難所とは思えないように見えるが、これは安政の大地震で海岸一帯が隆起したため。
 これによって、通行が容易になった「下道」が安政以降メインルートになり、峠を通るルートは荒廃したという。

 海を眺めながら坂道を下り、いよいよ峠ともお別れだ。途中、住宅地の入り組んだ路地があるが、地元の人の手になるのだろう、手作りの看板が駅への方向を指し示していた。

薩埵峠

 「薩埵峠官道中道」なる案内板もあった。官道とは文字通り「官費で整備する道」のことだが、もはや歴史用語に近い。
 細い道にも歴史と地元の自負が感じられる看板だ。

 由比駅から薩埵峠を経て興津駅まで約8km。ウォーキングが得意な人なら2時間、そうでない人でも3時間見ておけば大丈夫だろう。景色を楽しみながら、昔の旅人気分も味わえるコースとしておすすめしたい。

薩埵峠(さった峠)
住所 静岡県静岡市清水区由比・清水区興津
TEL 054-251-5880(静岡観光コンベンション協会)
通行 自由
交通 峠まで、JR東海道本線由比駅より約3.5km、徒歩で1時間強。興津駅からは約4.2km、徒歩1時間30分
ワンポイント 車で来る場合、由比側からだと、すれ違いができないような細い道を走ってこなければならない。どうしても車利用で来たい場合は、興津側からの道の方がまだよさそうだ。JR興津駅にはタクシーも常駐している。