浦安の原風景を今に伝える[浦安市郷土博物館]

浦安市郷土博物館

千葉県の浦安といえばディズニーランドの所在地として、また高級住宅地として有名だが、かつては名だたる漁師町でもあった。そんな往時の浦安を追体験できるのが、浦安市郷土博物館だ。
屋外展示には、「昭和27年(1952)頃」の浦安の町並みが再現されている。漁家や船宿、海苔製造場など8棟の建物が並び、掘割には舟まで浮いている。


旧本澤家住宅@浦安市郷土博物館

たばこ屋さんこと「旧本澤家住宅」は1926(大正15)年の築。タバコのほか、日用雑貨を商っていた。裏庭に面した縁側にはミシンと端切れが置かれ、今にもこの家の住人が戻ってきそうだ。
大型の木製冷蔵庫(氷で冷やすタイプ)の脇には練炭が山と積まれ、壁にはいくつもの魚籠が架けてある。パンフを読むと、家族は市場で鰻屋を営んでいたとのことで、その備品のようだ。

旧吉田家貸家住宅@浦安市郷土博物館

漁師の家「旧吉田家貸家住宅」は明治後期の築。作業用の土間が川に面した方向に造られているのが特徴だという。丸いちゃぶ台の上には、なぜか将棋盤が置かれていた。

ここに限らず、家屋の随所にさりげなく、けん玉やぬりえ、コマ、竹馬、空き缶ぽっくり(缶下駄)などが置かれ、子どもたちが勝手に遊んでいる。もちろん館内にはボランティアスタッフの方がおり、尋ねればいろいろと説明や指導をしてくれるのだが、この軽いほったらかし感もなかなかよい。

旧内田喜一氏所有三軒長屋@浦安市郷土博物館

出色は、藁葺きが目を引く三軒長屋(「旧内田喜一氏所有三軒長屋」)だ。江戸時代末期頃の築と見られ、九尺二間(間口九尺×奥行二間)の部屋が三軒連なっている。江戸時代の庶民の住居である長屋が現存している例は極めて珍しく、県指定文化財になっている。
ハマグリやアサリがザルに積まれ、軒からはアカガイの貝殻を利用した風邪除けのまじないがぶらさがっていた。三軒のうちの一軒は駄菓子販売コーナーになっている。

旧太田家住宅@浦安市郷土博物館

魚屋「旧太田家住宅」の店先には、アジやイワシ、クルマエビ、シャケの切り身(模型)などが並ぶ。1905(明治38)年頃の築で、土間がL字型に造られていたり、土間の中に井戸があったりと機能的な造り。
これらの住宅はいずれも、博物館のすぐそばを流れる境川の周辺から移築してきたものだ。

ベカ舟@浦安市郷土博物館

さっきから歩くとシャリシャリと音がする。よく見ると、道に貝殻がまかれている。かつての浦安では道に砂利の代わりに貝殻をまき、この貝殻から出る匂いが浦安独特の匂いだったという。そういう細部もさりげなく再現されている。

掘割では、時間帯によってベカ舟などに乗ることもできる。ベカ舟とは一人乗りの木造船で、主に海苔採り作業に用いられた。板が薄く、ペコペコするところからこの名がついたとも言われている。
わずか20mほどの水路を往復するだけであるが、たよりなげに左右にゆらゆら揺れるところなど、子どもたちに大人気だ。

浦安市郷土博物館

筆者が屋外展示で一番気に入ったのが、この共同水道まわり。
展示物という感じを全く与えない自然体でありながら、ジントギと呼ばれた人造石研ぎ出しの流しや、木桶など、ちゃんと時代を表現している。
さりげない細かいところまで造形が行き届いているあたり、同館の面目躍如たるものがある。

浦安市郷土博物館

このように屋外だけで結構楽しめるわけだが、館内の展示には何があるのかと思って、ふらりと入ると船大工の作業場があって驚く。ここでは船大工の実演や船釘打ちの体験が行われている。

浦安市郷土博物館

階上へあがると今度は江戸前の魚が銀鱗をきらめかしている。ボラやアジ、マイワシといった所だが、エイやカレイ、アナゴなども泳いでいる。

浦安市郷土博物館

振り返ると、原寸大ジオラマによる漁法の説明。狙う獲物によって、刺し網がスズキ網、コハダ網、サヨリ網などと区別されていることがわかる。

浦安市郷土博物館

順を追っていくとこれまた漁師町には欠かせない「行商」の説明。自転車で行商する人の箱の中身や一日の行程などがわかる。このあたりの展開の仕方は見事だ。

浦安市郷土博物館

最後に、同館の屋外展示は昭和27年(1952)頃を再現しているわけだが、なぜこんな中途半端な年なのか。それについても映像ホール「浦安亭」で映像出演の講談師が名調子で解説してくれている。
実は浦安は、1949(昭和24)年のキティ台風による高潮で大きな被害を受けた。「昭和27年」はその台風による被害からやっと復興がなって、漁師町として活気を取り戻した頃のワンシーンなのだ。

浦安市郷土博物館

館外に出て、境川に沿って浦安駅方面へ歩く。ちょうどこの日は灯籠流しが行われる日とあって、橋の欄干などにさかんに飾り付けがなされていた。
浦安は今でも川とともに生きる街である。そのことをふまえると、郷土博物館の展示は単なるノスタルジー展示ではない深みをもっているように思えた。

浦安市郷土博物館
住所 千葉県浦安市猫実1-2-7
TEL 047-305-4300
開館 9:30〜17:00(月曜、祝日の翌日、年末年始、館内整理日休館)
入館料 無料
交通 地下鉄東西線浦安駅またはJR京葉線新浦安駅よりバス10分「市役所前」下車
開館年 2001(平成13)年4月1日
ワンポイント 博物館にあるカフェレストラン「すてんぱれ」(浦安の方言で晴天の意)では、郷土料理の「あさりめし」を丼やパスタで提供している。あさりめしセット1050円など。