[感想後記]あなたの知らない“ウナギ”—東京大学総合研究博物館「鰻博覧会」

東京大学総合研究博物館「鰻博覧会」

 また、暑い夏がやってきた。夏と言えばウナギである。万葉集にも「夏やせに効く」と詠われているなど、日本人にとってはすっかりおなじみの存在である。
 2011年7月16日から東京大学総合研究博物館で開催されている「鰻博覧会」。ウナギを自然科学、社会科学、人文科学の各側面からアプローチしたというこの展覧会でも、活ウナギが展示されている。

 だが、この会場にいるウナギたちは、私たちの知るウナギとは異形のかたちをしている。
 身体が無色透明で、柳の葉のように漂うレプトセファルス。全長5cm足らずのシラスウナギ。人の腕ぐらいありそうな胴体を持ち、腹を卵で膨らませて、目をギラつかせ、ひたすら泳ぎ続ける銀ウナギ。
 彼らはウナギの別種なのではない。彼らこそが、私たちが普段何気なく口にしているウナギの真の姿なのだ!

東京大学総合研究博物館

 会場に入るとまず目に付くのが、「ニホンウナギの天然卵」(標本展示)である。マリアナ諸島の西マリアナ海嶺で採集されたもので、すべてのニホンウナギははるばるマリアナ諸島沖からやってくることが判明した。
 「養殖は別だろう」と思うかもしれないが、養殖ウナギは河口付近で稚魚をすくって、それを育てているだけなので、鰻屋やスーパーで「日本産」とか「中国産」とか、どんなレッテルを貼られようとも、これらのウナギは「西マリアナ海嶺産」なのである(養殖ウナギの一部に、空輸したヨーロッパウナギ、アメリカウナギを使ったものがあるが、これはサルガッソ海産になる)。

 卵から孵った彼らは、海流にのって日本を目指す。このレプトセファルスと呼ばれる仔魚が会場に展示されている(生体)。浮遊力を保つために、柳の葉のように扁平な身体を持つ仔魚が泳ぎ続けるさまは幻想的ですらある。
 沿岸部に近づいた仔魚はシラスウナギ(生体展示)になり川を遡上する。全長は5cmほど、ボールペンの芯ほどの太さながら、ちゃんと顔やヒレがウナギになっており、愛らしい。

東京大学総合研究博物館「鰻博覧会」

 異彩を放つのは「銀ウナギのスタミナトンネル」(生体展示)である。
 ウナギは成熟すると、腹が銀色に輝き「銀ウナギ」と呼ばれる。海へ入ると絶食し、目は頭半分ほどに大きくなり、下顎は突出し、まるで深海魚のような異形に変わって、マリアナ諸島沖を目指すと考えられている(『ウナギの科学』恒星社厚生閣,1999年 ほか)。
 このコーナーでは、ホルモン投与によって人工的に成熟させたウナギ(銀ウナギ)を、スタミナトンネルという水流を起こす水槽で飼育。西マリアナ海嶺へと還っていく環境を擬似的に再現しようとする実験的な試みである。絶食し、昼夜を問わずひたすら泳ぎ続けるウナギからは、子孫を残そうとする生への一念を感じる。

 ともすると悲壮感を感じさせる光景ではあるが、それがシリアスな雰囲気にならないのは、館内に「鰻をテーマにした落語」が響いているからであろうか。こちらは人文科学コーナーの展示になる。

 このほか会場には、ウナギ目魚類の標本が展示され、彼らがどのような系統を経て出現してきたかが分かるようになっている。アナゴやウツボよりも、深海魚のシギウナギやフクロウナギの方が、ニホンウナギにより近いというのは興味深い。

 このようにウナギの生涯を生体も含めて展示した画期的な企画展となっている。ウナギ好きならずとも一見をおすすめしたい。

東京大学総合研究博物館「鰻博覧会—この不可思議なるもの EEL EXPO TOKYO」
住所 東京都文京区本郷7-3-1
TEL 03-5777-8600
会期 2011年7月16日〜10月16日
開館時間 10:00〜17:00
休館日 月曜日(ただし7/18、9/19、10/10は開館)、7/19、8/12〜8/15、9/11、9/20、10/11
入館料 無料
交通 東京メトロ・都営大江戸線本郷三丁目駅より徒歩6分