不思議の町、三次[三次市歴史民俗資料館]

三次の町並み

三次(みよし/広島県三次市)は不思議な町だ。
まず、読み方が不思議だ。「次」はどう読んでも「よし」とは読めない。
島根県に木次という町があるが、これは「きすき」と読む。芸備線で三次の隣駅は八次だが、これは「やつぎ」で「やよし」とは言わない。「次」を「よし」と読ませるのは三次だけなのだ。

次いで、料理が不思議だ。この町の名物料理はワニ。といってもアリゲーターではなく、サメのことである。


三次のワニ料理

サメは生でも日持ちがするため、その昔、鮮魚に乏しい山村でよく食されていた。ここでは未だにサメが食べられている。煮物、フライ、天麩羅、ワニ丼などなど、調理方法は多様だ。

刺身を食べてみた。味は淡白だが、ねっとりとした舌ざわりが、ちょっと特徴的だ。「ワニを腹の冷えるまで食べてつかあさい」というのが、三次での古くからのもてなしの言葉だという。車で90分も走れば広島で、瀬戸内の海産物がたくさんあるというのに。

三次

このことは、三次の川の流れが関係している。
三次は、3本の大きな川が、町の中で1本へと合流する「川の町」だ。合流した川は江の川(ごうのかわ)として、日本海へ向かって流れている。

かつてははるばる日本海からサケが遡上してきたという。ワニ料理も日本海からもたらされたものだ。風土的には日本海文化圏に属していると言ってもいい。

三次市歴史民俗資料館

そして、三つ目の不思議が「妖怪伝説」だ。この町には、江戸時代の「稲生物怪録(いのうもののけろく)」という妖怪伝説が絵巻で伝わっている。

稲生平太郎(いのう・へいたろう)という16歳の若者が肝試しをする話で、1749(寛延2)年に三次で起きた出来事とされている。さまざまな妖怪が現れるが、平太郎が肝試しに勝ち、妖怪の魔王である山本太郎左衛門(さんもと・たろうざえもん/五郎左衛門とも)が降参して、退散するというストーリーだ。

三次市歴史民俗資料館

三次では、この伝説を利用して町おこしをしようと、「物怪(もののけ)プロジェクト」なるものを起動させている。毎年、妖怪仮装行列などを行い、この肝試しのエピソードをオペラにする計画もあるとか。

その拠点のひとつとなっているのが三次市歴史民俗資料館だ。市内の町並みは古く、ところどころに「うだつ」(町家の屋根に用いる防火を兼ねた小柱)が散見される。歴史民俗資料館も昔の銀行の建物を利用している。

三次市歴史民俗資料館 三次市歴史民俗資料館

館内には、三次の地理・歴史・郷土玩具などの展示があるが、妖怪伝説の展示はいかにも市民から愛されているという手作り感にあふれている。
上の写真の張りぼてのようなものは、平太郎が百物語をおこなったと伝わる「神籠石(通称:たたり岩)」の実物大模型。現物は今も比熊山付近にあるという。

三次

このほか、赤穂浪士ゆかりの史跡や、夏には川で鵜飼いなども行われている。自然あり、伝説あり、古い町並みあり。かつ郷土料理がユニークということで、もっと観光的に注目されてもいいのではないかと思うが、意外に知名度が低い。
「地産地消」は最近のはやりだが、思うにこの町では、観光も地産地消してしまっているのではないだろうか。ちょっともったいない気がする。

町を歩いていたら、「君こそ英雄、故郷の心」と広島カープの梵英心(そよぎ・えいしん)を応援する垂れ幕がかかっていた。文化圏的には日本海だが、心はやはり広島に向いているようだ。

三次市歴史民俗資料館
住所 広島県三次市三次町1236
TEL 0824-64-3517
開館 10:00〜17:00(月曜休館)
入館料 無料
交通 JR芸備線三次駅より徒歩20分
ワンポイント 歴史民俗資料館周辺に古い町家が残る。駅からやや距離があるので、三次駅の観光協会でレンタサイクルを借りるのもいい。筆者が泊まったホテル・アルファーワン三次では、宿泊客に無料でレンタサイクルを貸し出しており、重宝した。