花の飛鳥山[飛鳥山公園]

飛鳥山公園・旧渋沢庭園

 東京・王子にある「飛鳥山公園」(東京都北区)。海抜27mの丘陵をなし、北区で一番高い土地だというから、飛鳥山は北区の「最高峰」ということになる。そのせいか乾いた風が吹き抜けていく。
 着いた時はだいぶ陽が傾いていた。西陽射すなか、「旧渋沢庭園」を散策。公園の一角にあり、渋沢栄一の本邸跡でもある。
 芝生広場の奥に見えるのが1925(大正14)年築の「青淵文庫(せいえんぶんこ)」。

青淵文庫

 四角四面の倉庫(書庫)のような印象を受けるが、「文庫」と名の付く通り、もともと書庫として造られた建造物で、完成してからは来賓の接待などにも使用されたという。
 外壁を安山岩と陶板でデコレートし、ステンドグラスも用いるなど、なかなかおしゃれだ。

晩香廬

 このほか、木造平屋建の「晩香廬(ばんこうろ)」〔1917(大正6)年築〕もある。ともに国の重要文化財だ。
 だが、近くに寄っていくと、「安全確認中につき、建物には近寄らないでください」との貼り紙が。通常、毎週土曜日に内部公開をしているが、広域災害のため、内観もしばらく中止するとも書いてあった。見た感じ、そんなに被害を受けている様子は伺えなかった。

飛鳥山公園・旧渋沢庭園

 邸宅のほとんどは太平洋戦争の空襲で焼かれてしまったため、庭園のところどころに礎石などが残る。写真は、明治もだいぶ経ってから、渋沢栄一が伊藤博文と徳川慶喜を面会させたという茶室の跡。つわものどもが夢の跡というような感じもする。
 茶室のそばには月見台が設けられ、かつては遠く筑波山を望むことができたという。それらしい所に置いてある丸石に乗って眺めてみたら、高架の上を東北新幹線が走り抜けていった。

飛鳥山公園

 ところで、飛鳥山といえば、江戸時代から桜の名所なのだが、今年のサクラはまだまだで、ほころぶ気配もない。
 しかし、にもかかわらず、宴会をしているグループがちらほら。
 むかし読んだ、鉄道好きな人の書いたエッセイに、「レールさえあれば、その上を走っている列車を想像できる。だから、ボクはレールさえ見られれば満足なんです」というような一節があって、悟るとはこういうことか!と驚いた記憶があるが、今日、宴会をしている人たちもおそらくそういう気分なのだろう。彼らは、樹さえあれば、そこに咲く花を楽しめるのである。きっと。

飛鳥山公園

 園内を散策しても花の気配が感じられない。
 東京都公園協会のサイトによれば、飛鳥山はソメイヨシノを中心に650本の桜があるというが、そのほとんどがソメイヨシノなのだろう。
 「なにもこう全部ソメイヨシノにしなくても…」と、公園の無粋を恨みたくなったが、ふと思いとどまった。そもそもソメイヨシノは、江戸後期に染井村(現・東京都豊島区)の植木職人が作った桜の品種。染井はここから1kmも離れていない。言ってみればここはソメイヨシノの地盤なのだ。
 ここでソメイヨシノ以外の桜を探すのは、小沢一郎の地元で自民党の代議士をさがすのに似ている。そんなわけで、小沢一…じゃない、ソメイヨシノは今、寒風に耐えて雌伏の時を過ごしているのであった。

飛鳥山公園

 でも、執拗に歩き回っているとちらほらと花が見えた。そのうちの一本に近寄ってみたら、タカトウコヒガンザクラだった。長野県高遠町(現・伊那市)の産で「さくらサミット記念樹」というプレートがくっついていた。
 それにしても、今年はことのほか、春が遅いような気がする。悲しい出来事が起こったからそう感じるのだろうか。3月とはこんなにも寒く、冷たい日々だったろうか。

飛鳥山公園
住所 東京都北区王子1-1
交通 JR京浜東北線王子駅より徒歩3分
開園年 1873(明治6)年〔公園指定〕
ワンポイント 公園内には、「紙の博物館」「渋沢史料館」「北区飛鳥山博物館」の3つの博物館がある。東北地方太平洋沖地震のため、北区飛鳥山博物館は1階常設展示室の観覧を休止中。