天然記念物に囲まれた貝の聖地[青島]

青島神社

 宮崎、なかんずく日南海岸といえばフェニックス(カナリーヤシ)。だが、これは宮崎交通の初代社長・岩切章太郎(1894〜1985)が南国イメージを醸し出すために一所懸命植えたものだ。
 では、この南国イメージはまったくの創作なのかというとそうでもない。
 宮崎市街から南へ20km、日南海岸国定公園北端の青島には約4000本のビロウや27種の亜熱帯植物が繁茂しており、海辺の強い陽射しも相まって、まごうかたなき南国の雰囲気だ。

青島

 島の周りは、「鬼の洗濯板」と呼ばれる波状岩に取り囲まれている。これは3000万年前から100万年前にできたとみられる砂岩と泥岩が交互に堆積した岩盤が、隆起して浸食された結果、固い砂岩層だけが残ったものだ。この「洗濯板」は国の天然記念物に指定されている。
 また、亜熱帯植物の群落も「その植物区系が特異である」ということから、特別天然記念物に指定されており、青島というのは島全体が天然記念物からなっているといってもいい。

 そんな特異なスポットだから、昭和の観光客がここにハワイを見たように、古代の人がここに神威を見ても不思議ではない。島には青島神社が建ち、社伝では平安初期の嵯峨天皇(786〜842)の時代には崇拝されていたという。かつては島全体が立入禁止の聖地だったが、1737(元文2)年以降、一般の入島が許可され、以後参詣者で賑わった。

鬼の洗濯板 鬼の洗濯板

 海岸から橋を渡って島へ入る。ちょうど引き潮だったので「鬼の洗濯板」の眺めが見事だ。朱塗りの社殿が濃緑の亜熱帯植物によく映える。
 驚いたのは、島の高さがほとんどないことだ。本殿の前から参道を見ても、石段数段を降りただけで、あとは洗濯板を経て海である。これでは台風の時とか、波が押し寄せて、かなり怖いのではないかと思われるが、あるいは島の周りに広がる洗濯板が波を防いでいるのかも知れない。

青島神社参道

 本殿の右側に、誘うかのように亜熱帯密林の奥に伸びていく道がある。これがビロウ樹の林を経て、島の奥の元宮へと至る参道である。
 元宮からは、割れた弥生式土器が多数出土し、古代の祭祀跡として伝えられている。ここでは「天の平瓮(あめのひらか)投げ」を行うことができる。素焼きの盃を投げる、いわゆる「かわらけ投げ」である。
 天の平瓮は一枚200円。これを手に持ち、磐境(いわさか・岩を組んで造られた神域)に向かって二礼する。次に天の平瓮に小声で願いを込め、投瓮所から磐境に向かって投げる。投げた天の平瓮が磐境に入れば心願成就、割れれば開運厄除だという。

青島神社・磐境

 さっそくやってみた。磐境は岩で組まれた2m四方ほどのスペース。投瓮所からの距離は4〜5mほどであろうか。
 煩悩と欲望の思いの丈を込めて「えいっ」と投げると、うまく磐境に向かって飛んでいきそうに見えたが、途中でカーブして、脇の岩にあたってパリンと割れた。というわけで、開運厄除である。福引きでティッシュをもらったような気分だ。
 磐境の周りを見ると、砕けたかわらけに混じって、イタヤガイ類(ホタテガイのような二枚貝)の貝殻も散乱していた。かわらけの代わりに貝を投げることもあるらしい。

青島神社・真砂の貝文 青島神社・真砂の貝文

 脇に「真砂の貝文(まさごのかいぶみ)」という、やはり岩が炉のように組まれたスペースがある。岩のなかには大小様々な貝が納められ、すき間から雑草が青葉をのぞかしている。脇の説明板によると、ここは拾った貝を奉納する場所で、特にタカラガイがよいとのこと。
「青島は隆起海床(洗濯板)に貝殻が堆積してできた島である。古代万葉の人々は、和歌の中で、貝殻のことを濱の真砂と詠み、数多い貝殻の中から自分の心情に合った貝を探し、それに想いと願いを込めた。神社前の浜辺にて真砂を探し、ここにお供え下さい」といった趣旨のことが書いてある。ちょっとした貝の聖地の趣である。

青島神社

 島をひとまわりして本殿に戻る。本殿脇にプロ野球巨人軍の絵馬がずらりと並んでいる。毎年春にジャイアンツの宮崎キャンプが、ここ日南海岸で行われることから、青島は貝の聖地であると同時に、巨人軍の聖地でもあるようだ。
 「日本一」とか「開幕一軍」「一軍定着」といった絵馬に混じって「新婚旅行!!」などというのもあり(それは願いなのか?)、選手の個性が伺えて楽しい。

 神社を参拝したあと、せっかくなので、海岸に出て貝殻などを探してみる。と言っても、島のまわりが洗濯板に囲まれているので、ほとんどが岩場である。

青島神社

 タカラガイというのは不思議なもので、同じ海岸線でも、ないところには全然ないが、ある所には7つ8つとまとまって転がっている。これは貝の生態(群棲など)か潮流によるのだろう。しかし、潮流によるのだとしたら、ほかの貝も同じスポットに集まっていそうなものだが、タカラガイだけがまとまって確認されるのである。
 青島周辺の海岸を2kmほど歩いてみたところ、同じような洗濯板の海岸線であるにもかかわらず、タカラガイは島の東端1か所にだけ固まって打ち上げられていた。
 「日南海岸にはタカラガイはないのか?」と思って歩いていたら、突然出現したので驚かされた。こういう出現の仕方もなんとなく貝の聖地っぽくてよい。

青島(青島神社)
住所 宮崎県宮崎市青島2-13-1
TEL 0985-65-1262
交通 宮崎空港よりバス25分、またはJR日南線青島駅より徒歩5分
ワンポイント ビロウ群落の成因には「南方から漂着した種子または生木が繁茂した」とする漂着帰化植物説と、「日本が暖かかった第三紀以前に生えた植物が、その後もこの島に残存した」とする遺存説の二説があるという。