先駆的な総合ミニ水族館[市立玉野海洋博物館]

渋川海岸

 春の海はどこもそうだが、瀬戸内海はとりわけ、のたりのたりと波打つ。
 そんな陽光がまぶしい渋川海岸に面して建つのが、この市立玉野海洋博物館。渋川マリン水族館という愛称を持ち、地元の人にはこちらの方が通りがいいようだ。
 敷地面積4500平米というこぢんまりとした施設であるが、同館の目玉はなんといっても、目の前の瀬戸内海にちなんだ展示。岡山名物の「ままかり」として知られる光り物のサッパや、佃煮(釘煮)にすると旨いイカナゴなどが飼育展示されている。

玉野海洋博物館

 このイカナゴ、瀬戸内海に春を告げる魚なのであるが、夏になると砂に潜って、冬眠ならぬ夏眠するという珍しい習性を持つ。同館ではこの魚の展示にあたって、水温を下げたり、試行錯誤してみたが、どうしても夏になると砂に潜って夏眠してしまうのだそうだ。
 というわけで、春に訪れると水槽を乱舞する様子を、夏に行くと頭だけ出して砂に潜っている様子を見ることができる。筆者は春に訪れたので、普通に見てしまったが、もしかすると夏の姿の方が貴重だといえるのかも知れない。

玉野海洋博物館

 そういえば、他の水族館ではあまりこのイカナゴの展示を見ない。夏場にカラになってしまう水槽を展示するのは敬遠されているのだろうか——しかし、カラの水槽にはカラなりの生態展示の意義があるわけで、そこに同館の真摯な展示姿勢を感じる。
 ちなみに、砂に潜っていても、クマみたいに春まで出てこないとかそういうわけではなくて、エサの時間にはちゃっかり出てくるそうだ。

陳列館

 同館の大きな特徴のひとつに、魚類や貝の標本、船舶模型などを展示した陳列館の存在があげられる。船舶模型のコーナーはただの模型展示かと思いきや、「紫雲丸」の模型が展示してあった。「紫雲丸」は宇高連絡船(宇野〜高松)の船舶だったが、1955(昭和30)年に高松港沖で、濃霧のため「第三宇高丸」と衝突して沈没、修学旅行生を中心とする168人の死者を出した。この惨事がきっかけとなって、瀬戸大橋架橋の機運が高まることになるという、いわくつきの船である。瀬戸内海に面した同館には忘れてはならない展示なのだろう。

陳列館

 このほか、魚類の剥製や貝の標本が所狭しと並んでいるが、じつは館内はこの陳列館の方にかなりのスペースを割いている。
 たんなる水族館ではなく、瀬戸内海の漁業や船舶、海洋文化についても展示した、この総合的なスタイルは、同館が開館した1953(昭和28)年当時としてはかなり画期的なものだったといえよう。現在でこそ、水族展示と博物展示を合体させた施設は散見されるが(琵琶湖博物館アクアマリンふくしまなど)、同館はこれを先取りしていたわけだ。
 同館が水族館と言わず海洋博物館と称しているのは施設の姿勢を物語っている。陳列館という古風な名前も、歴史の長さを感じさせてくれる。

春の渋川海岸 ふれあいタイドプール

 館外に出てみた。外ではあいかわらず春の日差しがふりそそいでいる。ふれあいタイドプール(上写真の右)をのぞいてみたら、イイダコの姿があった。これまた瀬戸内海の春先の名物だ。卵を持ったメスは春ならではの味わいとして賞味される。
 イカナゴといいイイダコといい、季節の移り変わりを感じさせてくれる水族館だ。

玉野市立玉野海洋博物館(渋川マリン水族館)
住所 岡山県玉野市渋川2-6-1
TEL 0863-81-8111
開館 9:00〜17:00(水曜日と年末休館。春休み、GW、7〜8月は無休)
入館料 大人500円、5〜15歳未満250円
交通 JR宇野線宇野駅よりバス20分、またはJR岡山駅より特急バス68分。渋川下車徒歩5分
開館年 1953(昭和28)年7月20日
ワンポイント 渋川海岸は「日本の渚百選」にも選ばれており、夏は海水浴客で賑わう。海洋博物館にはレストランなどの設備はないが、海岸に売店や食堂がある。