オープニングにひとくせあり[アクアマリンふくしま]

2000(平成12)年開館の「アクアマリンふくしま(ふくしま海洋科学館)」は、大型水族館の中では新しい方の部類になる。
普通、この手の新しい水族館は、最初に観客を「わーっ」と言わせて盛り上げようと、カツオやマグロなどが泳ぐ大水槽を配することが多い。だが、そのあとが続かない。そうそう大物ばかり飼うわけにもいかず、小物の水槽が続くので、ルートの後半に行くに従って、観客が小さい水槽をのぞき続けることに疲れ、飽きてきている様子がよくわかる。最初に討ち入りを見て、そのあとビデオを巻き戻して頭から『忠臣蔵』を見るようなものである。

で、我らが「アクアマリンふくしま」のオープニングなのであるが、栄えある一番バッターはなんとカブトガニなのである。てっきり、最初に討ち入り
があると思っていたので虚をつかれる。地球の歴史と生物の進化を時系列で見せようというのである。
この展示手法は、水族館には珍しく「博物館」型だ。当然生き物たちもこの時系列で配置される。

「生きた化石」といわれているオキナエビスやシーラカンス(これは標本)が順次登場してくるのはもちろん、通常「熱帯の生き物」のコーナーにいる肺魚なども、『魚類から両生類、さらには爬虫類・哺乳類への進化』という過程に位置づけられているのだ。


古代の海が終わって、次はいよいよ……と思ったら、エスカレーターで4階にあげられてしまって、今度は渓流や川の水槽を見ることになる。福島県の河川とその生態系をイメージしているのだという。
見上げれば、半オープンエアーな天窓から陽光が降り注ぎ、ススキがかさかさと音を立てている。
(海へ来たんじゃなかったのかな……)
などと思いながら、川の水槽のわきを曲がると、突然目の前に魚の銀鱗が横切る。目の前に広がるのは「潮目の海」水槽。満を持して真打を登場させてくるのである。


福島県の沖合では、親潮(寒流)と黒潮(暖流)がぶつかりあい、いわゆる潮目と呼ばれる海域をなす。これが同地が好漁場と呼ばれる由縁なのだが、それを巨大水槽で再現したのだ。
すなわち、親潮水槽と黒潮水槽を△型に突き合わせ、左を見れば親潮でサケやメバル、ソイ、コマイなどの寒流系の魚が泳ぎ、右を見れば黒潮にカツオやイワシが群れをなしている様子が観察できるようにしている。階下に降りれば、△のピラミッド型をした海中トンネルを楽しむことができる。

もっとも、その海中トンネルに行き着くまでに、「北の海の海獣」「サンゴ礁の海」「海の博物館」といったコーナーが連なり、なかなかクライマックスに至らず、じらすのである。『忠臣蔵』の討ち入り
とも『水戸黄門』の印籠
ともいえるパターンである。
とはいえ、「海の博物館」では実物大の和式漁船を漕ぐシミュレーションがあったり(なかなか目的の島にたどり着かず、難しい)、出口近くにある「ふくしまの海」コーナーでは同館イチオシのサンマの飼育水槽があったり(なじみのある魚の割には生態がよくわかっておらず、飼育が難しい)と、これもなかなか見応えがあるので、足早に通り過ぎるのは惜しい。

最後にやっと、「潮目の海」水槽の海中トンネルに来た。
ふと上を見ると、親潮水槽と黒潮水槽の境目で、黒潮の側で1匹のカメが、親潮の側で1匹の魚が、水槽の縁をまるで寄り添うように泳いでいる。相手が右へ行けば、こちらも右へ行き、左へ泳げば、こちらも左へ行くという案配だ。
カメと魚類という、ただですら道ならぬ恋のうえに、生育環境が親潮と黒潮である。モンタギュー家とキャピュレット家を和解させるより難しいかも知れない。
2匹の身の上を案じているうち、「閉館でーす」という守衛さんの声を後ろに聞きながら、館外へと追い出された。いずれにしても、後半に見ものが集中している水族館である。お急ぎの方はぜひ時間配分を意識して見学されたい。
アクアマリンふくしま(ふくしま海洋科学館) | |
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住所 | 福島県いわき市小名浜字辰巳町50 |
TEL | 0246-73-2525 |
開館 | 9:00〜17:30(冬期短縮、夏期延長あり。年中無休) |
入館料 | 一般1600円、小〜高校生800円 |
交通 | JR常磐線泉駅よりバス15分 |
開館年 | 2000(平成12)年7月15日 |
ワンポイント | 同館は、2009(平成21)年10月、インドネシアにおいて世界初となるシーラカンス稚魚の撮影に成功。現在、水族館内にて映像を公開中。 |