日本最古の植物園が持つ歴史の厚み[東京大学大学院理学系研究科附属植物園]

小石川植物園

 うっそうと茂るスギやヒノキなどの針葉樹林。足元の歩道は落ち葉や枯れ木によっておおわれ、非常に弾力性のある土になっている。
 見上げると覆いかぶさる木立の隙間から青い空がのぞいている——などというのは久しく都会ではお目にかかれない光景なのだが、これがよりによって東京のど真ん中、文京区に広がっているのである。

小石川植物園 通称・小石川植物園。正式名称を東京大学大学院理学系研究科附属植物園というこの植物園は、とにかく見ものが多い。

 普通、植物園での見ものというと、珍しい熱帯の植物とか、貴重種のランとか、南米原産の高山植物といったような横軸、つまり地域的な広がりに拠っているものなのだが、ここの見ものは縦軸。即ち歴史的広がりなのである。

 この植物園の設立は1877(明治10)年。だが、その前身は1684(貞享元)年に作られた徳川幕府直轄の小石川御薬園にまでさかのぼる。そのため、園内には、多様な史跡が残されている。

小石川御薬園の井戸跡 甘藷試作地跡

 当時、朝廷や幕府に献上した薬草の乾薬場や、吉宗の時代に造られた養生所の井戸跡(写真左)、青木昆陽が甘藷の栽培を試みた甘藷試作地跡(写真右)、ぐっと下って関東大震災の時、園内の救護所で避難生活を送っていた人たちが立てた碑などなど。

 本来の主役であるはずの植物も負けてはいない。

享保12年移入のサネブトナツメ

 このサネブトナツメは1727(享保12)年に薬用植物として中国から移入されたものだそうだ。1917(大正6)年の暴風雨で倒れて、この形になった。
 記録のあるなかではこの植物園でもっとも古い植物だという。江戸から明治、さらには現在までの東京の変遷を見てきたわけである。

明治初期に植樹されたスズカケノキ 明治初期に植樹されたスズカケノキ

 何気なく植わっているスズカケノキであるが、1876(明治9)年植樹という日本でもっとも古い株のひとつ。明治時代に街路樹用の樹木として試験的に植えられたものなのだ。

メンデルのブドウ ニュートンのリンゴ

 さらに、遺伝学の祖メンデルが実験に供したというメンデルのブドウ(分株=写真上)やニュートンのリンゴ(接ぎ木=写真下)がある。といっても、見た目にはあまり変わりはないのだが。

 このリンゴの木は、1964(昭和39)年に日本に贈呈された当時、ウイルスに侵されていて、通常なら焼却処分にされてしまうところだった。それをここの植物園が隔離保存していたという。そのウイルスを除去することに成功したのはそれから16年経った1980(昭和55)年のことだったとか。今ではすっかり回復してかわいい実をつけている。

 これで終わりかと思うとまだ続く。この植物園は発見由緒にも強いのである。

精子発見のイチョウ 精子発見のソテツ

 どうってことないイチョウだが、1896(明治29)年に種子植物としてはじめてイチョウの精子が発見されたという精子発見のイチョウである。入口脇には精子発見のソテツもある。

 植物園中央部の台地に咲くソメイヨシノの学名は、この植物園の初代園長によって名付けられたものだし、低地の池からは1909(明治42)年に世界でも関東地方にしか分布していない淡水魚ミヤコタナゴが採取され、新種と記載された。

植物園本館

 園内の建築物も風格が備わっている。
 L字型の本館は真ん中に前面ガラス張りの塔が立っていて、らせん階段がスケスケだ。ガラスも縦長の上げ下げ窓で、昭和初期モダニズムというらしい。
 残念ながらこの建物は一般人立入禁止。屋上やガラスの塔の部分からの眺めもよさそうだ。研究者はばんばん出入りしているだけに口惜しい。

旧東京医学校本館 小石川植物園(日本庭園)

 また、花菖蒲のきれいな日本庭園の脇には旧東京医学校本館が移築されている。
 東京大学医学部の前身であり、1876(明治9)年に建てられた明治期の学校建築で、東京大学関係の建造物では最古のもの。一階は白、二階は赤、と紅白に塗り分けられた洋館(正確には木造擬洋風建築)が日本庭園のグリーンに映える。
 現在では東京大学総合研究博物館小石川分館として公開されている。

小石川植物園(日本庭園)

 こんな具合に、日本最古の植物園は、何の変哲もない植物ひとつとっても、なかなか魅せてくれるのである。

東京大学大学院理学系研究科附属植物園
住所 東京都文京区白山3-7-1
TEL 03-3814-0138
開園 9:00〜16:30(月曜・年末年始休園)
入園料 大人330円、小学生110円
交通 地下鉄丸の内線茗荷谷駅より徒歩15分
開館年 小石川御薬園として1684(貞享元)年設置。1877(明治10)年、東京大学設立とともに附属植物園として一般公開。
ワンポイント 入園券は道向かいのタバコ屋で購入すること。植物園の受付にも常時係員がいるのに、なぜであろうか、決して受付では入園券を売らないのである。パチンコ屋と景品交換所のような関係なのであろうか(違)。