憧れの“団地生活”を丸ごと再現[松戸市立博物館]

松戸市立博物館

千葉県の松戸市に「団地生活」を丸ごと展示してしまっている博物館がある。松戸市立博物館がそれだ。

1960(昭和35)年、同地には都市住宅整備公団によって世帯数5000戸ほどの常盤平団地が建設され、農村から住宅都市への変貌のさきがけになった(同館パンフより)そうだが、その時の団地の1戸(2DK)をほぼ丸ごと館内に復元展示しているのだ。


松戸市立博物館

団地は、当時、最先端のモダン住宅であり、暗くて寒く、且つ使い勝手が悪い日本家屋と違って、羨望の的であった。

と同時に、最先端住宅への羨望というのは単にその機能性に憧れるだけではなく、その住宅がもたらすライフスタイルに憧れるのだ。今日、タワーマンションに住まわんとする人々が、単に標高の高さを欲しているのではなく、タワーマンションのライフスタイルに憧れているように。

松戸市立博物館

常盤平団地の入居が始まってまもなく、地元の子どもたちの間に団地ごっこなる遊びが流行ったという。
遊びといっても、男の子と女の子が手をつないで歩くという、ただそれだけ。団地に入った若い夫婦の散歩の様子をまねしたものなのだが、この一事をとっても、当時どれだけの新鮮さをもって団地生活が受け入れられたのかがわかろうというものだ。

この明るいハイカラな住宅は若い世代の努力目標でもあった。
電気釜、オーブン、トースター、ミキサー、ステレオ……。1962(昭和37)年頃の光景をイメージしたという館内の展示には、そんなきらびやかな生活が余すとこなく再現されている。

松戸市立博物館

家電製品にばかり目を奪われていてはならない。家具もイスも当時のものである。

食卓の上にはカロリーが高そうな、けばけばしい色のケーキ(模型)が並び、畳敷きの部屋にカーペットを敷いて洋間として使っている。本棚の本、食器棚の中の器にまで時代考証が及んでいるというからすごい。読みさしの雑誌や、テレビから流れるコマーシャルですらそうだ。

壁には東郷青児の絵がかかり、書棚には百科事典(おそらく月賦で購入したのだろう)。これが当時の知的なホワイトカラーの生活だったのだ。

松戸市立博物館

かつてはここの展示は、室内には入れず、ベランダの見学コースから窓越しにのぞき込むだけという、ストーカー気分が存分に味わえる構成だったが、現在では幸いにして室内を周回する見学コースが設けられている。

10Aの配電盤

外回りも再現されているので、玄関や階段まわりなども観察しよう。玄関の内側に配電盤がある。昔のヒューズ式だ。過電流になると、このヒューズが飛び、電気をシャットダウンする。
当時は「ブレーカーが落ちる」というよりは「ヒューズが飛ぶ」という言い方が一般的だった。この飛んでしまったヒューズを付ける作業が、家庭内での父親の権威の見せ所だった、となにかのエッセイで読んだ。

この常盤平団地がオープンした当時、個々の家に与えられたアンペアはわずか10Aだったという。これで家電のすべてをまかなっていたのだ。クーラーがなくて当たり前の時代とはいえ、隔世の感がある。

松戸市立博物館屋外展示

ここは松戸市の博物館なので、ほかにもいろいろと松戸の移り変わりを知ることができる。虚無僧の歴史(虚無僧寺が松戸にあった)や20世紀梨(松戸で誕生した)についての展示まである。上記の団地も、松戸の都市化についての展示のひとつなのだ。

屋外には縄文時代の竪穴住居が3棟展示されている。竪穴住居から団地までを収めた博物館である。

松戸市立博物館
住所 千葉県松戸市千駄堀671
TEL 047-384-8181
開館 9:30〜17:00(月曜と月1回の館内整理日は休館)
入館料 一般300円、学生150円
交通 JR武蔵野線新八柱駅・新京成線八柱駅よりバス10分または徒歩25分
開館年 1993(平成5)年4月29日
ワンポイント 同館の展示構成と当時の団地生活については、『再現・昭和30年代 団地2DKの暮らし』(青木俊也著、2001年)に詳述されている。著者は同館の学芸員。