名古屋にそびえる日本最古級[名古屋市東山動植物園]

名古屋市東山動植物園

 広大な丘陵地帯に動物園、植物園、遊園地などが点在し、名古屋市民の憩いの場として知られている東山動植物園。施設としてのキャリアも長く、1918(大正7)年に鶴舞公園に開園した動物園が、1937(昭和12)年になって現在地に移転してきたものだが、その前身は、1890(明治23)年に動物商の今泉七五郎が開いた「浪越教育動物園」にまでさかのぼるという。
 この東山の地に、国の重要文化財にも指定された日本最古の温室が存在する。

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 温室は、1937(昭和12)年の開園時に登場し、現在までほとんど変わらない姿で建っている前館と、1962(昭和37)〜1984(昭和59)年にかけて増築された後館からなる。

 重要文化財に指定されているのは前館の方だ。
鉄とガラスによる建築物の造形的特質を良く示す、わが国最初期の本格的な鉄骨造温室建築というのが指定理由。

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 前館(写真上)は、一見して華奢な造りだ。よく見ると継ぎ目の部分が、昔の建物に多いリベット打ちではなく、溶接されている。指定理由には最初期の全熔接建造物として高い価値があると述べられており、名古屋で初めての電気溶接を使って造られた建物なのだ。
 後館(写真下)へ入っていくと、一転して鋼材が太い。工の字形の頑丈そうな鉄鋼が交差し、継ぎ目もボルトでガチに組んである。

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 この建物は幸いにして、古い前館と新しい後館とが一体となっているので、新旧の見比べがその場ですぐできる。頑丈な方が後世の作で、スリムな方が古いというのは、技術の進歩という面から見るとあべこべのようだ。
 この温室がモデルにした、ロンドンのキュー植物園パームハウス(1848年築)は、造船の船底を造る技術を応用して建てられたという。そういわれてみると、前館の方は、なるほど船をひっくり返したような構造だ。普段は気にもとめない植物を入れる器だが、見比べてみるとおもしろい。

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 では、せっかく名古屋が誇る温室に来たのだ。この温室の名古屋らしさに触れてみよう。
 筆頭は、小笠原特産の熱帯植物「マルハチ」だ。この植物は、茎から落ちた葉の跡が○に八を重ねたような丸八マークになる。丸八マークといえば、名古屋の市章なのだから、これは市としても放ってはおけないであろう。説明板の文章もそのせいか熱っぽくなっている。
 そして、「中南米産植物温室」ではサボテンの代表品種「金鯱」が大量に前面に展示されている。これも隠れたこだわりなのかもしれない。

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 さて、この動植物園と温室の歴史が長いことは冒頭に書いた。それを改めて我々に告げてくれるのが、温室内の植物の名札に輝く温室マークだ。
 このマーク、開園当初からいる植物にしかつけられていない。開園とともに苦楽を共にしてきたプランツだけが得られるゴールドマスターな表示なのだ。

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 ところで、この動植物園内でもうひとつ最古級のものがある。

 「古代池」にある3体の恐竜像だ。今見ると「なんだ、しょぼい」と通り過ぎてしまいそうだが、温室に遅れること1年余、1938(昭和13)年に登場した彫像だ。セメント厚約9cmの鉄筋コンクリート造りで、トリケラトプス、イグアノドン、ブロントサウルスの3体からなる。

 1938(昭和13)年である。これは現存する日本最古、少なくとも最古級の恐竜像ではないだろうか。鉄筋コンクリートの勃興期に造られ、しかもトリケラトプスに至っては半身を水に浸しながら70有余年の歳月を過ごしてきたのだ。建築入門の書に近代建築技術の結晶(『建築見どころ博物館ガイドブック』彰国社・2006年)と絶賛されているのもうなずけよう。

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 今日、絶大な人気を誇るティラノサウルスなどがおらず、恐竜研究の嚆矢となったイグアノドンがチョイスされているところなど、昭和初期の恐竜認識をうかがわせて興味深い。

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 ここの温室は、水晶宮といわれたロンドンのキュー植物園パームハウスをモデルにしている。この最古の温室を見て、まだ見ぬ熱帯に憧れ、植物学者や理科の先生や商社の現地駐在員などが輩出したに違いない。
 古代池の恐竜たちも、この彫像を見て、太古へのロマンをかき立てられあまたの考古学者、自然史学者を送り出したに違いないのである。

名古屋市東山動植物園
住所 愛知県名古屋市千種区東山元町3-70
TEL 052-782-2111
開園 9:00〜16:50(月曜、年末年始休園。月曜が祝日の場合はその直後の平日に休園)
入館料 大人500円、中学生以下無料
交通 地下鉄東山線東山公園駅より徒歩3分
開館年 1937年
ワンポイント 忘れてしまいそうだが、一応、一番の目玉はコアラ。1984(昭和59)年にこの動物がここに来なかったら、今日の中日ドラゴンズのマスコット「ドアラ」は存在しなかったであろう。当のコアラは、コアラ舎の中で、寝てるともなく起きるともなく、日長一日ゆったりとユーカリを食べている。