たそがれ水族館[鶴岡市立加茂水族館]

鶴岡市立加茂水族館

※2014年6月よりリニューアルし、新館展示が登場。このルポはリニューアル前のものです。

何の変哲もない施設が、日々の努力が実を結んで、ある日突然大ブレイク——という代表事例に旭山動物園(北海道旭川市)を挙げるのは論を待たないことであるが、世の中、旭山動物園ばかりが成功者なのではない。日本海に面し、庄内の磯浜を借景にたたずむ加茂水族館もそのひとつだ。

1930(昭和5)年に地元の有志によって設立された同館は、1964(昭和39)年に移転し、現在の形になった。当時は第1次水族館ブームと呼ばれていた時代で、毎年20万人もの集客を誇ったという。


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しかしながら、施設の存在自体の物珍しさが失せ、老朽化し、ほかのレジャー施設が相次いで登場してくると客足は自然に衰える。バブル期に葛西臨海水族園、八景島シーパラダイス、海遊館、名古屋港水族館など、大型水族館が続々と誕生して話題をさらうようになると、旧来の水族館は古くてみすぼらしいものに見えてくるのである。

この時期、各地の水族館は相次いで建物の改修や建て直しを行い、さらにウーパールーパー、ナポレオンフィッシュ、ラッコといった流行の生き物たちを争って導入するようになる。それによって客足を回復させようとしたのである。

平成に入ってから加茂水族館の入場者数は9万人台に低迷した。そして、よそがやるように加茂水族館もまた1994(平成6)年にラッコを導入した。しかしながら、ラッコの集客効果は極めて限定的だった。1967(昭和42)年以来、同館の館長を務めている村上龍男館長はこう語っている。

1頭1500万円もするラッコ2頭を購入し、ここにしては大金の3000万円以上の投資をした。しかし、ラッコを展示した翌年にはお客様が大幅に減った。これには本当に困った。少なくとも3年は増客すると思ったのが、わずか1年しか持たなかったのである。(「い〜山形どっとこむ」サイトより)

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〈限られた資金をいかに使えば次のお客様がまた来てくれるのか〉——加茂水族館は、ここで初めて、クラゲに手をつける。1997(平成9)年のことだった。〈お客様の喜ぶ姿に励まされ〉(村上,前掲)、2000(平成12)年には10種のクラゲを展示することに成功した。
一口に10種といっても、クラゲはそもそも数か月の寿命しかなく、ちょっと水質が悪くなると溶けてしまう有様だから、これらを展示するには、相当な手間と苦労がかかっている。

当時、日本の水族館では11〜12種の展示が最高数だったという。ここで日本一を目指して、クラゲの展示に弾みがかかる。入場者数も10万人台に回復した。
さらに1998(平成10)年から「クラゲを食べる会」を開催して、食用化と話題性をさぐり、2004(平成16)年には、その努力の結晶であるクラゲアイスクリーム(クラゲ含有量5%)の販売を開始した。塩に漬け込んだものを塩抜きしてゆで、約5mmに刻んでアイスクリームに練り込んだ。低カロリーでコラーゲンが豊富なのを売りにしている。

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そして、2005(平成17)年3月20日、ついに、加茂水族館は世界一となった。当時、クラゲの展示ナンバーワンは展示種類17種のアメリカのモントレー水族館。同館は、展示種類20種以上というクラゲ水槽「クラネタリウム館」をリニューアル・オープンさせて、これを抜き、クラゲの展示種類では世界一となったのである。

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加茂水族館の攻勢は止まらない。老朽化したレストランの補修工事を機に、ここもクラゲに徹することを決め、2006(平成18)年3月19日に「クラゲレストラン」をオープンさせた。クラゲ入りのつみれ汁やごま豆腐、皮にクラゲを使った生春巻きの「クラゲ定食」やクラゲソフトクリーム、クラゲゼリーなどのラインナップが並び、同館の集客の一角を担うのである。

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ところで、加茂水族館が建つ鶴岡の地が輩出した著名人に、時代小説家の藤沢周平がいる。人情の機微を巧みな自然描写にのせて描くことを得意とする藤沢だが、彼の作品に『たそがれ清兵衛』という短編がある。

映画化されて話題にもなったが、主人公は病妻を抱えたさえない男。夕方になるとさっさと家路を急ぎ、妻に代わって炊事や掃除などを行うところから「たそがれ清兵衛」というあだ名がついた。妻の看病に追われて、仕事中もうつらうつらと舟を漕ぐような人物で、周囲からも軽んじられている。しかし、剣術には長けており、藩命で剣をとった途端に大活躍をするという話である。

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文庫本にはこのほか7本の短編が収められているが、いずれも、へちまのような顔をした三十男だったり、すぐど忘れをして物事を思い出せない隠居だったり、あるいは終始無口で陰気な男だったりと、外見はさえないキャラだが、剣を手にするとまわりがあっと驚くような活躍を見せるというストーリーである。

この加茂水族館も、築40年を越えた建物で決して二枚目とはいえない。古くて狭くて暗いのである。ところが、ひとたびクラゲを手にとると獅子奮迅の活躍をする。外見はたそがれていても、内には凄いものを秘めているのだ。
こういう水族館の存在は、藤沢周平を生んだ地にこそふさわしいといえるのかもしれない。

鶴岡市立加茂水族館
住所 山形県鶴岡市今泉字大久保656
TEL 0235-33-3036
開館 8:30〜17:00(季節により延長あり。年中無休)
料金 一般800円、小中学生400円
開館年 1930年(1964年4月19日に庄内浜加茂水族館として現在地に移転開館)
交通 JR羽越本線鶴岡駅よりバス30分「加茂水族館」または「加茂登町」下車
ワンポイント 「クラゲレストラン」の食事メニューは11:00〜15:00(L.O.)の提供、ドリンク類は16:30がラストオーダー。