“おしん”の奥津城[山居倉庫/庄内米歴史資料館]

 1983(昭和58)年7月、国鉄酒田駅前に全高1.3mの少女の等身大像が建った。子守姿をして、いかにも奉公人という感じのその少女像は、当時、飛ぶ鳥落とす勢いだったNHK朝の連続テレビ小説「おしん」にちなんだものだった。
 最上川上流にある寒村の小作の子に生まれたおしんが、一人一膳の大根飯がやっとという貧困ゆえに幼い頃から酒田の米問屋などに奉公に出され、苦労をしながらやがて自立する—という橋田壽賀子作のこのドラマは、平均視聴率52.6%という空前の人気を呼び、4月の放映開始から早3か月で、舞台となった酒田駅前に等身像が建つまでになったのだ。

JR酒田駅

 「おしん」の評価は、その後も衰えることを知らず、現在でもNHKからビデオ化されて販売されているほか、海外52か国で翻訳されて放映されるという人気ぶりである。少女時代を演じた子役の小林綾子は、今日に至るまで「おしんの」という接頭語がくっついてマスコミの話題にのぼる。

 だが、この駅前に建った像は、順風満帆とはいかなかった。除幕式当初から「(小林)綾子ちゃんに似ていない」という不満が、観光客や市民の間から続出。同地を訪れて少女像に対面した当の小林綾子(当時10歳)も首をかしげたという報道までなされて、建ててから3か月経った10月に、首だけをすげかえられるハメになった。再登場の「首」は綾子ちゃんに似て、かわいらしく、愛きょうもある、とまずまずの評と当時の朝日新聞は報じている。

酒田山居倉庫

 そんな、米どころの町・酒田に降り立つ。
 駅前を見回すが「おしん像」はない。駅のキヨスクにも、当時話題になった便乗商法の土産物はすでになく、なぜか小泉純一郎まがいのキャラを使ったチーズケーキが並ぶ。時の流れには勝てないものだなと思いつつ、酒田きっての観光名所・山居倉庫(さんきょそうこ)へ向かう。

山居倉庫

 1893(明治26)年に酒田米穀取引所付属倉庫として建築されたもので、今も12棟が現役で活躍中。ケヤキ並木と新井田川沿いに並ぶ土蔵造の倉庫の美しさが観光客に人気のスポットである。

 山形の観光ガイドには必ず載っている「山居倉庫とケヤキ並木」のシーン。このケヤキは、強い西日を防いで倉庫内の温度を保つために植えられたもので、空調設備のない当時、考えられた知恵だった。
 敷地内には、相撲の土俵が設けられていたりして、「国技」と「コメ」との密接なつながりをしのばせる。

 

 上の写真は川に面した側で、米の積み降ろしをした石畳の船着き場などが残っている。本当は川に面した側が「表」で、絵になるケヤキ並木の方は「裏口」にあたる。
 そんな倉庫のくもりガラスを手で拭いてあなた明日がみえまぁすぅ〜か〜…ではなくて、倉庫のガラス越しに中を覗いてみたら、なんと自動車が停まっていた。倉庫だから当たり前なのだが、風情ある外観とは裏腹に、内部はなかなか機能的のようだ。

 この倉庫の一角にはJA庄内経済連の手になる庄内米歴史資料館が併設され、山居倉庫ができた当時の検査風景や農家の様子がマネキンで再現されている。
 右など、水木しげるの世界かと見まがうようなキャラだが、腹の部分がビデオになっているお米くんシアターだ。

 ほかにも、画面の質問に答えていくと、食生活のアドバイスをしてくれる食生活診断や、レシピコーナー、現在までのコメのかけあわせを展示するコーナーなどがある。

 当時の倉庫へ米俵を運ぶ作業の様子を現したマネキンもあった。米俵の運搬は、主に女性の仕事で、力自慢の腕くらべの際に、5俵も背負った人がいるという。
 隣には、俵と同じ重さのサンドバッグが置いてあり、俵かつぎにチャレンジできる。腰がイテテ…、30kgはなんとかなるが、60kgはどうにもならん。そうか、お米を食べると力がつくのか(←術中にはまる)。

おしん像@山居倉庫

 と、突然、館内に「おしん」像が現れた。こんなところを奥津城としていたのである。脇には、おしんが奉公していた「加賀屋」のジオラマまで展示されている。

 ドラマのなかでは、いじわるな女中にいびられて奉公先を追い出されたりしたが、こちらも駅前を追い出されたのか?——しかし、米問屋への奉公や大根飯という、とかく米にからんだ「おしん」にふさわしい安住の地であるように思われた。

山居倉庫・庄内米歴史資料館
住所 山形県酒田市山居町1-1-8
TEL 0234-23-7470
開館 9:00〜17:00(12〜2月は16時迄。年末年始休館)
入館料 300円(山居倉庫を外から見る分にはタダ)
交通 JR酒田駅よりバス10分「山居町」下車