『まじないの文化史』、新潟県立歴史博物館監修で発売
新型コロナウイルスで、アマビエが注目されたように、むかしの人々もさまざまな「まじない」で、疫病などの災いを除けようとした。
新潟県立歴史博物館監修の『まじないの文化史—日本の呪術を読み解く』(河出書房新社)は、古代の土器に残された呪術の痕跡、古文書の記録、さらに現代の民俗事例、神社仏閣の祭事・護符に至るまで、博物館ならではの手広さで、日本の呪術の歴史とその文化的影響を俯瞰する。
急々如律令、五芒星などの解説も
とりわけ、紙や木片に呪文などを書き付けた「おふだ(呪符)」は、まじないに用いられる代表的なものであるが、そこに書かれることが多い、急々如律令、五芒星、九字などについての解説も掲載されている。
例えば、「蘇民将来」は疫病除けの護符として、現在でも社寺などで授与されているが、その護符の最古の出土例は長岡京(奈良時代末〜平安時代初期)にまでさかのぼるという。
また、厄除けの習俗として、村や町の境界に「作り物」「道切り」などと呼ばれる注連縄や藁細工が掲げられることがあるが、佐渡で現在も行われている「作り物」には、古代律令制の『延喜式』祝詞に登場する神の名や、古代中国の民間風習にルーツがあると言われる鬼の名が書かれている。
このように、古代に起源を持つ呪術が、現代でも行われているところに、おふだとまじないの文化的影響の広さと深さを感じることができる。
私たちは呪術に囲まれている!?
そして、ふとあたりを見回してみれば、現在でもアニメやゲームは魔術で大人気だし、交通安全のステッカー、ご利益をもたらすストラップ、絵馬、神棚のおふだ、七夕の短冊などに至るまで、私たちのまわりには、今なお、呪術的なものがあふれていることに気がつかされる。
古代の人々が土器に顔を描き、木簡を呪符として祈りを捧げてきたのは、現代医学が登場する以前の古い人々の単なる気休めではない。
そこには、超越的な力によって災厄を避けたい、望みを叶えたいと願う人々の精神的営みがあり、現在の私たちに至るまで、その「精神」が連綿と続いていることがわかるだろう。
「おふだ」が映す文化の姿
日本の呪術は、中国からもたらされた道教や陰陽五行思想、さらにインドで成立し中国を経て伝わった密教が、日本古来の土着的な信仰とあわさったものだ。
それゆえに、様々な要素が複雑に絡み合って、一見、混沌と思えるほど融合しているが、これが「文化」というものの姿なのだろう。
「おふだ」や「まじない」からは、文化が伝わり、根付き、そして移り変わっていく姿をうかがいしることができる。
【『まじないの文化史』の内容の一例】
- 奈良〜平安時代の呪い事件を総まくり
- 奈良時代からある!? 「蘇民将来」のまじない
- 古代遺跡から出土、人の顔が描かれた人面土器
- 村はずれに吊された「草鞋」と呪文の意味は?
- アンチョコだった?まじないの秘密の書
- 上杉謙信も使った、戦国武将の起請文 などなど