木造校舎でノスタルジー気分[府中市郷土の森博物館]

府中市郷土の森博物館

冬が掻き入れ時という珍しい(?)民家園が東京都府中市にある。
古民家や旧役場庁舎などの復元建築物のほかに、博物館やプラネタリウムが立ち並ぶ「府中市郷土の森博物館」がそれだ。

もっとも、賑わう一番大きな理由は敷地内に併設されている梅園のためで、2月中旬のシーズンには60種1100本の梅の木が、白、赤、桃、緑混じりの白といった様々な花をつけ、寒々した緑地の中でここだけカラフルになる。


さて、復元建築物には商家や農家、旧役場庁舎などがあるが、ひときわ目立つ存在といえば、木造2階建ての旧府中尋常高等小学校だ。1935(昭和10)年の築で、教室数39と、当時北多摩郡随一の規模を誇っていたという。

移築されているのは中心部分のみだが、それでもかなりの大きさ。
入口からして、靴を木製の下駄箱にしまって入館していくところがいい。入っていくと、どこからともなく、「巣立ちの歌」が流れてきて懐かしさを覚える。これは、地元出身の詩人・村野四郎によって作詞されたもので、校舎内には、村野四郎記念館も併設されている。

教室は昔の机やイスがそのままに並ぶ。がらんとした教室の大きな窓から弱い西陽が差し込んでいる。かつて誰しも一度は経験したことのある、「放課後の教室に忘れ物を取りに帰った」時の気分を思い出す。

別の部屋では、跳び箱や薪ストーブなどの展示もあるのだが、これがぼんぼんと無造作に置いてあるような感じで、これはこれで、体育倉庫に立ち入ったような気分が味わえる。ただし、ついつい昔が懐かしくなって、ここでこっそりとタバコを吸ったりなんかしていると、先生…じゃない、博物館の人に厳しく咎められるので絶対やめましょう。

このほか園内には、府中宿の大店(おおたな)や府中新宿の商家が建ち並び、甲州街道にゆかりのある府中市らしいところを見せてくれている。

また、地面をすり鉢状に掘って、それに螺旋状の道をつけたまいまいず井戸も復元されている。現在の京王線府中駅前にあった平安時代の遺構を元に再現したもので、一見、巨大なアリ地獄のような形状をしていて、一番深い部分に井戸がある。

これは、水の便の悪い武蔵野台地に多く見られた井戸で、その昔の中世の頃、井戸掘りの技術がまだまだ発達していなかった時代に、なんとか地面を深く掘り下げて、地下の水脈に到達しようと努力した結果の産物だ。掘りかねるということから「掘りかねの井」とも通称された。当時は、埼玉県狭山市の同型の井戸が有名だったらしい。

そのネーミングのセンス(?)が当時の平安朝セレブたちにウケたのか、古歌に『武蔵なるほりかねの井の底を浅み思ふ心を何に喩へむ』=超訳【武蔵にある掘りかねの井戸は、掘りにくいから底が浅いんだけれども、じゃあ、私のこの(深い)思いは何に例えたらいいのかしら】とか、『汲みて知る人もあらなむおのづから堀かねの井の底の心を』=超訳【掘りかねの井戸は底が浅いっていうけれども、そんなのホントに汲んでみなきゃわかんないじゃない。ねぇ、アナタ試してみる?】なんて歌があるほどである。

この井戸は、現在では、草木が覆い茂るだけの無粋な存在であるが、平安朝の歌の世界に限って言えば、伊豆の「恋人岬」的な役割を果たしてきたともいえる。

これからの卒業式のシーズン、昔の木造校舎で思い出にひたってみるのもいいだろうし、そうやってムードを高めておいて、掘りかねの井戸の一番底まで行き、井戸のウンチクを垂れながら告白に及ぶのもいいだろう。

そんなふうに、ここはいろいろな用途に対応できる博物館なのである。

府中市郷土の森博物館
住所 東京都府中市南町6-32
TEL 042-368-7921
開館 9:00〜17:00(月曜・年末年始休館)
入館料 200円
交通 京王線・JR南武線分倍河原駅より徒歩20分