[感想後記]江戸〜昭和の「いきもの」のいる生活/江戸東京博物館「いきものがたり」展

江戸東京博物館「いきものがたり」展

江戸時代には野鳥などを観賞用に飼育して、その鳴き声を楽しむ愛好家が増えた。写真の屏風は、ウズラの鳴き声や姿の優劣を競う「鶉会」の様子

江戸東京博物館(東京・両国)では、「いきもの」と人との関わりをテーマとした企画展「いきものがたり—江戸東京のくらしと動物」を、2019年9月23日までの会期で開催している。

一口に「いきもの」といっても多様であるが、展示では、犬猫や小鳥などの愛玩動物を取り上げた「愛されたいきもの」、牛馬に代表される「働くいきもの」、パンダのように観覧されて話題になった「人気のいきもの」、そして意匠としてデザインに用いられた「いきものデザイン」の4コーナーで構成。
江戸から昭和まで、これらにまつわる品々が並んでいる。

江戸東京博物館「いきものがたり」展

「いきもの」と人との関わりを示す品々は多岐にわたる。このような品揃えは、博物館ならでは

総点数280点(展示替え含む)は1点を除いてすべて館蔵品で、普段なかなか展示されていないものを選んだという。
美術館だとアート系が中心の展示となるところ、博物館の収蔵品ならではの多様さを楽しんでほしいとのことで、浮世絵や写真はもちろん、武家の子弟の乗馬練習用木馬、江戸時代の象の錦絵、子供用の床屋椅子(馬のギミック付き)などが展示されている。

江戸東京博物館「いきものがたり」展

明治時代の子供用床屋椅子。これなら散髪の間、むずからないでおとなしくしていただろうか?

会場に入るとまず、「愛されたいきもの」のコーナー。
ウズラの鳴き声を楽しむ会の様子を描いた、江戸時代の「鶉会之図屏風」が目に入る。武家や町人の富裕層から普通の町人まで、身分の別なく出品・参加して楽しんだといい、富裕層は蒔絵の鳥籠、町人はシンプルな鳥籠と描き分けられている。

江戸東京博物館「いきものがたり」展

ウズラの鳴き声は「ゴキッチョウ(御吉兆)」と聞こえることから、大名や旗本にも人気があったという。江戸期には鳥の飼育はもっぱら男性の趣味だったようだ

猫の浮世絵といえば歌川国芳だが、彼の執筆風景を、子供の頃に弟子入りした河鍋暁斎が描いていた。着物の袂に猫、まわりにも猫。
今でもSNSに上げられる画像をみると、液晶タブレットのまわりに猫をはべらせているイラストレーターさんも多いので、古来から猫と創作意欲とは何かしらの関係があるのかもしれない。

江戸東京博物館「いきものがたり」展

河鍋暁斎が描いてた、歌川国芳の執筆風景(部分)。猫に囲まれて仕事をしていた様子がよくわかる

江戸博には篤姫関連の資料も多いが、篤姫の飼い猫・サト姫の食膳を再現した展示もあった。黒塗りの膳にドジョウとカツオ節が載っており、皿はあわびをかたどったもの。
ご精進日(肉食を避ける日)のメニューとのこと。これで精進になっているのかわからないが、捕食者として特化し、肉食で進化を極めた食肉目の長に精進といっても無理からぬことか。

江戸東京博物館「いきものがたり」展

篤姫の飼い猫・サト姫の食膳を再現した展示。ドジョウとカツオ節が載っている

浮世絵や書籍の挿絵などに登場する犬や猫に注目した展示も。子どもと草鞋をひっぱりあっている犬などが描かれている。
武家屋敷跡から発掘された犬の展示もある。この個体には寛永通宝が副葬されていた。葬式の際に死者に持たす六道銭と同じような意味があるのだろう。ペットだったか番犬か、いずれにしても愛されていたことをうかがわせる。

「働くいきもの」では、リアルな鞍掛木馬が人目を引く。江戸時代、武家の子弟が鐙の乗り降りや鞭のあて方などを練習するために使われたもの。
ほかにも鷹狩りの様子や馬市、馬車鉄道などの資料が展示されている。

江戸東京博物館「いきものがたり」展

江戸時代、上流武家の子弟が練習に用いた鞍掛木馬。庄内酢漿の家紋から酒井家伝来のものの可能性がある

牛乳箱があったので何かと思ったら、牛であった…。明治になって空き家になった武家屋敷の敷地で酪農が営まれた。当時、保冷輸送の技術がないから牛乳は地産地消だった。四谷の牧場は明治7年に創業し、その分家は世田谷区で1985年まで牛乳を作り続けたという。

江戸東京博物館「いきものがたり」展

昭和中期の牛乳箱。奥に見えるのは明治時代の牛乳瓶

「人気のいきもの」には、パンダやサーカスの動物たちのほか、江戸時代の象の錦絵が。
象は江戸時代に見世物として大きな話題になったのだが、それはたんに舶来の珍しいものへの好奇心というだけではなく、普賢菩薩の乗り物でもある象を参拝するという信仰心もあったことを初めて知った。

江戸東京博物館「いきものがたり」展

象を描いた江戸時代・文久年間の錦絵


江戸東京博物館「いきものがたり」展

上野動物園のサル山が描かれたカラー版画(1934年)。サル山は1932年に完成し、今も現役で上野動物園にご健在である

「いきものデザイン」では、鶴亀に松竹梅をあしらった打掛や、猫や鼠をかたどった蚊遣りや行灯、郷土玩具などが並ぶ。ちりめんや巾着などの明治〜大正期の手作り玩具(鯛や蛸、兎などをかたどった)から、ライオン、アヒル、金魚などのセルロイドやブリキ製のおもちゃへの流れは時代を感じさせる。

江戸東京博物館「いきものがたり」展

セルロイド製のおもちゃ。日本では大正時代からセルロイド玩具の生産が始まり、昭和初期には輸出製品の1位になったという。可燃性が強いため、昭和30年に製造中止となった

バラエティに富んだ展示は「博物館がこんな物まで収蔵しているのか」という驚きを感じさせる。と同時に、暮らしの中に溶け込んだ「いきもの」を探し出すおもしろさもある。
江戸東京博物館5階の企画展示室にて。常設展料金のみで観覧OK。

江戸東京博物館「いきものがたり—江戸東京のくらしと動物」展
住所 東京都墨田区横網1-4-1
会期 2019年8月6日〜9月23日(8月19、26日、9月2日休館)
開館時間 9:30〜17:30(土曜は19時30分まで、8月9、16、23、30日は21時まで開館時間延長)
入館料 一般600円、大学生・専門学校生480円、中学〜高校生300円(都内の中学生と小学生以下は無料)
交通 JR総武線両国駅より徒歩3分
ワンポイント 8月9、16、23、30日はサマーナイトミュージアムを開催。開館時間を21時まで延長。