ネーミングは地味だが、見応え十分[いわき市石炭・化石館]

★2010年4月にリニューアル(これはリニューアル前の記事です)

 石炭化石というきわめて地味なネーミング(失礼!)なので、館名だけ聞くと、石炭と化石がぽつんぽつんと置いてあるだけの施設を想像してしまうが、これが予想に反して見応えのあるスポットだ。
 この施設は、かつての常磐炭田の炭坑(1976年閉鎖)の敷地を再利用して建てられた。そのため石炭の採掘の歴史はもとより、当時の生活をしのばせる炭坑住宅の再現や、この地で発見されたフタバスズキリュウ、そしてそれに関連して恐竜や首長竜の展示が並んでいるのである。

 

 入口では、フタバスズキリュウがお出迎え。館内に入ると、クビナガリュウの仲間であるプリオサウルスの標本が。その隣にひとまわり大きいデカプリオサウルスが(これは嘘)。

 さらに奥に進むと、1978(昭和53)年に発見されたイワキクジラの化石標本がある。
同市・四倉高校の体育館西側から発見されたというが、発見された地点のパネル写真を見て驚いた。体育館から校庭に沿って点々と十数頭の化石が続々と見つかっているのである。
 これは約400万年前に生息していたヒゲクジラ類に属する新種で、現在まで16個体が発掘されているという。きっとこの高校では「放課後、体育館裏へ来い!」などといわれてクジラの発掘を手伝わされた生徒が少なくなかったであろう(?)。

 「石炭展示室」では炭田についての歴史が模型などで語られているが、エネルギー革命の説明で、展示してある年表が昭和50年代のところでプツリと途切れているのが、ちょっと寂しさを誘う。いわき市における石炭の歴史はピンクレディーの時代で止まってしまっているのである。

 さて、順路は採掘の歴史を実物大で再現したという「模擬坑道」へ進むのだが、そこへは地下600mの坑底に入坑する雰囲気が体験できるというふれこみの竪坑エレベーターに乗って降りていかねばならない。かつて炭坑労働者が地下に下りていったような雰囲気を演出したもので、ゴーッという音がして、壁面の表示が地下300m、600mと変わってゆく(写真)。

 やがて地底に着き、ドアが開くとそこにはマネキンなどで再現された模擬坑道が展開しているという仕組みだ。
 本当は、車椅子用エレベーターぐらいのゆっくりとした速度で2階から1階に降りただけなのだが、よく考えて造られている。この演出効果の努力に敬意を払って、展示を見終わったあと、館内を一周してもう一回乗ってしまった。

|さぁ模擬坑道へ出発!|

 エレベーターのドアが開くといきなり神棚が出てくるところが、いかにも坑道である。ヤマの安全を守るのには欠かせないものなのだ。

 展示は、幕末〜明治の本当に手掘りの時代から、だんだんと近代化していく様子がよくわかる。
 手掘りの時代は家族単位で掘っていたらしく、父ちゃん母ちゃんとおぼしきマネキンが近所のうわさ話などをしている。

 坑道の木組みの枠は実際にその当時の組み方で再現されており、時代が下るにつれ、より力学的な組み方に変化していく。

 やがて、女性労働者が姿を消し、作業員もメットなどをかぶるようになる。
 当初は人力で運びあげていた石炭も、トロッコが登場し、やがてベルトコンベアになる。そのうち、ショベルカーとベルトコンベアが一体化したような機械が出現する。坑道をうねるように掘り進んでいったのだろう。

 しまいには「ダブルレンジングドラムカッター」という戦隊ものの必殺技のような名称の機械がでてくる。なるほど、これをくらったらひとたまりもない(違う)。
 ところで、いわき市は温泉地でもあるのだが、この温泉は石炭採取中に坑内から湧き出したもので、炭坑のジオラマにも坑内で湯舟に入っている作業員のマネキンがある。仕事が終わってひと風呂浴びているシーンかと思ったらさにあらずで、これがなんと水風呂。温泉が湧き出す坑内では場所によって気温が40度近くまで上昇し、水風呂に入って体温を下げなければならなかったのだとか。

 先ほど炭坑の敷地を再利用して建てられたと書いたが、屋外にもいくつかの展示品がまるで遺構のような姿をしてたたずんでいる。
 そのひとつが「湯本第6坑人車坑々口」で、作業員を乗せる人車(長イスを連ねたようなトロッコ)が坑口に向かって進みかけた状態のまま展示されている。いまにも坑内へと落ち込んでいきそうだ。エレベーターもいいが、こういうのに乗って先ほどの坑内へ降りていきたい気もする。

 さて、坑内に湧きだした温泉というのは炭坑にとってありがた迷惑な話で、じゃばじゃばと捨てていたのだが、1966(昭和41)年に、この廃湯に目をつけて常磐ハワイアンセンター(現・スパリゾートハワイアンズ)を開業させた。炭坑の灯は消えても、その廃湯は今なお、いわき市の集客の要になっている。

 展示を見終えて、湯本の駅へ向かって歩き出す。スパリゾートが湯本駅からちょっと離れていることもあって、駅までの道沿いには、炭坑が閉鎖されてからそのまま時間が止まってしまったような、雨戸を閉ざしたままの家屋や商店が散見される。駅があった場所はかつて常磐炭坑の積み出しで賑わった場所なのだそうだ。
 駅前に着くと、石炭の代わりに団体客を満載してスパリゾートの送迎バスが走り抜けていった。

いわき市石炭・化石館
住所 福島県いわき市常磐湯本町向田3-1
TEL 0246-42-3155
入館料 大人630円
交通 JR常磐線湯本駅より徒歩10分
開館年 1984(昭和59)年10月18日
ワンポイント 2010年4月に展示の一部を刷新し、リニューアルオープンした。