昭和再現展示に見るご当地ぶり[福井県立歴史博物館]
昭和、とくに戦後の高度経済成長前後の展示は今や各地の博物館で見られるようになった。では、どこも似たり寄ったりかというとそうでもなくて、各館とも、その土地の「昭和時代」を表現しようと知恵をしぼっている。そういう知恵
を見つけるのが、博物館めぐりの楽しみでもあったりする。
福井県立歴史博物館ではそれを昭和40年代前半「改築された農家」などを中心に表現している。室内の「ザ・昭和」的な光景に目を奪われるが、一歩引いて改築部分を外から眺めると、そこにはアルミサッシのドアや引き戸が使われているのがポイント。
改築していない玄関部分はのぞき込んでみるとわかるが、天井がかなり高い。改築部分とは暖房効率も異なったであろう。戦前に建てられた農家が、昭和40年代前半に洋風に改築されたという設定だが、これは昔からの家の多くがたどってきた過程でもある。
勝手口にある牛乳受けは当地のものだ。また、元の建物は外壁や柱にベンガラが塗られ、柱の束石は地元で産出する笏谷石(越前青石)が用いられている。これは、福井県北部の農家の特徴という。
さらに、瓦の色が古い部分と新築部分で異なっており、古い屋根は赤い瓦、増築部分は銀ねず色の瓦である。これは当時のトレンドの変遷…ではなく、越前各地で焼かれていた赤瓦が釉薬の改良によって、発色が変化していったことを示してるそうだ。
「昭和」というレトロ展示を眺めながら、もっと昔のその土地の風土を知ることができるというのもおもしろい。
この「昭和のくらし」の再現は、農家の「村のくらし」と商店の「町のくらし」からなっている。
町の方は、大衆食堂、自動車・自転車修理工、駄菓子屋からなっているミニ商店街。大衆食堂も秋になると、さりげなくメニューに鍋焼きうどんが加えられるという演出がある。
駄菓子屋は内部の再現もさることながら、ガラス戸に貼りついた古いシールの痕(下の写真、矢印部分)など秀逸である。確かに昔はおまけシールが千社札のように壁だの柱だのに貼られていた。これは実際のガラス戸を持ってきて使用したのだろうか、もし再現だったら凝りすぎるほどの演出だ。
ベンチの脇に人知れず咲く花も丁寧に再現。さらに、花が咲いてない雑草までも、丁寧に再現。一木一草といえども怠らないとはこのことか。こういう細かな積み重ねが、再現展示全体のリアリティを醸し出しているのだろう。
ここの展示は1時間に1回ほど、効果音や照明で朝〜夜を表現するのだが、夏と秋には台風の演出もあって、ラジオの台風情報と風雨の音が響く。照明も薄暗くなって、雨音が強まり、なかなかの雰囲気だ。気のせいか、風まで吹いてきたように感じる……、気のせい……、と、天井を見上げると、空調装置がフル回転でルーバーを動かしている。
空調装置まで動員して、全館総出の演出なのであった。
農家の玄関先には「ジョン」と名付けられた犬が飼われている。ジョンは観客がある仕草をすると吠えるようにしつけられている。そういうギミックもお楽しみのひとつ。
福井県立歴史博物館「昭和のくらし」の特徴は、町並み再現のほかに、グッズ展示のコーナーもあることだ。
家電や日用品、生活雑貨、雑誌の類が、整然とボックス状のケースに入れられて展示されている。さきほどの再現展示とはまた異なり、ひとつひとつの意匠をじっくり眺めることができる。「ゲストボックス」なるコーナーもあり、コレクターによる品々も展示。
このほか「歴史ゾーン」では、古墳時代初期の玉つくり(管玉や腕輪形の石製品)の様子や鎌倉時代後期の越前焼の窯を推定復元している。
忠臣蔵討入の絵馬があるので、なぜかと思ったら、江戸時代、福井城下では「夢楽洞」という町絵師の工房があり、そこで作成された絵馬が評判だったからだそうだ。展示室内には、その夢楽洞の店頭の様子も再現されるなど、福井の歴史を俯瞰できるよう構成されている。
福井県立歴史博物館 | |
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住所 | 福井県福井市大宮2-19-15 |
開館 | 9:00〜17:00 |
休館日 | 第2・第4水曜、年末年始 |
入館料 | 一般100円、高校生以下無料(特別展は別途) |
交通 | JR北陸本線福井駅よりバス15分、幾久公園または県立歴史博物館前下車 |
開館年 | 1984年4月8日、福井県立博物館として開館。県立恐竜博物館設置に伴い、人文系の福井県立歴史博物館として再編し、2003年3月12日開館。 |