廃校と標本と博物館と[ふじのくに地球環境史ミュージアム]

ふじのくに地球環境史ミュージアム

廃校となった旧県立静岡南高校の校舎を利用してオープンした「ふじのくに地球環境史ミュージアム」

タクシーがぐいぐいと急坂を登っていく。この坂は、遅刻を気にして毎日通っていた高校生には恨みの坂だったのではないだろうか。目指すは静岡市駿河区にある県立静岡南高校
だが、同校は2013(平成25)年に学校の統合により閉校となってもう存在しない。そのかわり、そこには現在、博物館が建っている。閉校となった校舎を、リノベーション(用途変更などのために改修すること)してつくられた「ふじのくに地球環境史ミュージアム」だ。

ふじのくに地球環境史ミュージアム

昇降口も広々とした展示室になった。所々に学校の椅子の姿が見える

車を降り立つと、見るからに校舎然とした建物が出迎えてくれた。館内に入ると、脇にさりげなく置いてある椅子や机が、学校で使用していたものだ。

教室を利用した展示室に入ると、それらの備品がさらに大活躍をしている。館内にはところどころに校舎や教室をイメージさせる展示があり、一見アートのようにも見える。あえて学校の名残を感じさせる仕掛けになっているようだ。

ふじのくに地球環境史ミュージアム

静岡県内各地から産出する岩石や鉱物の展示。室内の床も教室を彷彿とさせる

だが、このミュージアムが見せようとしているのは、「アートのような展示」ではない。その先にある「標本」だ。

ふじのくに地球環境史ミュージアム

日本一深い湾・駿河湾を、机を重ねることでイメージした展示

例えば、机を積み上げた展示室には、「殻を見て進化にふれる」と書かれている。のぞきこむと、ダンベイキサゴの化石種と現生種を比較させ、形の進化と海洋環境の変化について触れている。
「深海魚を拾う」では、駿河湾の深海魚の特性と、夜間に浅海に上がってくる鉛直移動について言及している。

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駿河湾の深海魚の標本なども展示されている、展示室3「ふじのくにの海」

教室の中に骸骨が鎮座している、一見キワモノのように見える展示も、脊椎動物の骨格を比較するのに便利なようになっている。例えば、手の骨に注目して標本を比較しながら見ていくと、コウモリの翼は指が進化したものであるということがわかる、といった具合だ。

ふじのくに地球環境史ミュージアム

骨格標本がずらりと並ぶ、展示室8「生命のかたち」

「平成」という時代は、博物館や水族館が「おしゃれ」になっていった時代と重なる。展示スタイルも、それまでの陳列型から体験型・再現型へと大きく変わった。
しかし、その過程で、「標本」などは地味だったり、瓶の中で白っぽくなって気持ちが悪かったりというわけで隅の方へ追いやられてしまった感がある。

ふじのくに地球環境史ミュージアム

標本を用いて食物連鎖と環境について解説する、展示室4「ふじのくにの大地」。いずれの展示室も標本の見せ方を工夫しているのがわかる

でも、そういう風潮も最近少し変わってきたのかもしれない。
ここでは、学校の備品をフル活用してオブジェをつくり、それに誘われて近づいていくとそこには標本が展示してある。標本を観察させ、その価値に気付くという仕掛けだ。

一見、地味でつまらなそうな標本の価値を知ること。そういう小さな驚きや発見が、文化全体を支える根になっていくのだろう。

ふじのくに地球環境史ミュージアム

旧職員室を改装した「図鑑カフェ」からは、駿河湾が一望できる

ふじのくに地球環境史ミュージアム
住所 静岡県静岡市駿河区大谷5762
開館 10:00〜17:30
休館日 月曜(祝日の場合は次の平日)、年末年始
入館料 一般300円、大学生以下無料(企画展は別途)
交通 JR東海道本線静岡駅より直通バス30分またはタクシー15分
開館年 2016年3月26日。元の建物である県立静岡南高校は1983年開校し、学校再編統合により2013年3月31日閉校。
ワンポイント 静岡県は、標高3000mを超す富士山や南アルプスから、水深2400m以上にも及ぶ深海の駿河湾まで、多様な自然環境を有している。この地域の自然を端緒として、世界的な地球環境を考察することを狙いとしたミュージアムだ。