飛ぶように売れるニシン!勝手に増えるトド!
[おたる水族館]

おたる水族館

愛知万博の跡地は公園になり、トトロの家も再オープンしたそうだが、このおたる水族館は1958(昭和33)年に札幌と小樽を会場にして開かれた北海道博覧会のパビリオンがその起源になっている。

博覧会後、その跡地に水族館として開館し、翌年施設を移転、さらに1974(昭和49)年に新築オープンしたから、当時の博覧会をしのぶものは何もないが、北海道の動物園・水族館のなかでは古株にあたる。


展示はエントランスのウミガメから始まり、トビエイ、ピラルク、ニシン、ケガニといった北から南までのさまざまな魚介類が顔を出す。ウニやアワビなどを取り上げた「栽培漁業コーナー」、オホーツク海にいる巨大なひらめ・オヒョウやサケ・マス類が回遊する「オホーツク海・ベーリング海水槽」など、北海道と海とのかかわりを感じさせるコーナーもある。

屋外にまわると、イルカやペンギンのショー、ラッコ館、セイウチ館などが並ぶ。人気ナンバー1はイルカのショーなのだが、同館の気合いが入っているのはトドのダイビングショーだ。

トドは岩によじ登って高い断崖から海に飛び込む習性がある。同館ではこの習性を利用して、高さ9mの台からプールに飛び込むダイビングショーを思いついた。なにせ、オスだと体重1トンにも達する巨躯なので、これがすさまじい水柱を立てて飛び込むのである。観客から歓声が上がるのはもちろん、別のコーナーにいた客が、轟いた水音に何事かとふりかえるほどだ。

ところで、さっきから脇でバチャバチャと水音が聞こえる。波の音ではない。びちびちと何かで水面を叩くような音だ。のぞき込むと、アザラシプールのアザラシがヒレで水面を叩いて、ひたすら何かをアピールしている。
脇を見ると魚が数匹入ったバケツが置かれている。「ああ、そろそろ餌の時間なのか」と思ったら、バケツに「アザラシの餌 1パイ100円」の文字。

なに、これ客がやるのか?バケツを持った家族連れが近づくと、どどどーっとプール中のアザラシが集まってくる。そして、びちびちとヒレで叩いて、餌の催促である。まるで公園の池のコイのような感じでアザラシを飼っているというのは、さすが北海道というべきであろうか。

別のプールに行くと、寒流の魚であるホッケやソイなどが泳ぎ、脇に「つりぼり 100円」の看板。「つった魚はプールにもどしてね!」の文字も見える。
この水族館、博覧会出身のせいなのかどうか、なかなか商売上手と見た。

ふと、いい匂いが漂ってきた。焼き魚の匂いだ。屋外に2か所ある食堂では、北海道らしく、ニシンの丸焼きが売られていた。1尾700円。

東京の感覚だと、定食セットならともかくサカナ丸ごと1匹どんと出されても困るだろうと思うのだが、これが飛ぶように売れている。子どもがアイスクリームか何かを食べている脇で、お父さんとお母さんがひとり1尾ずつニシンを頼んで、おいしそうにパクついている。

と、背後で大きな水音がした。またトドが飛び込んだようだ。このプールは、日本海をバックにして開放感あふれる造りになっている。荒天の時には、波でも入ってきそうなほどの隣接感であるが、実際にはどころか、当のトドがやってきたことすらある。

昭和30年代の終わりのこと。同館には、羅臼町や網走市から仕入れてきた4頭のトドがいた。ある日、トドがいつの間にか増えていたのである。どうやらプールのトドの声を聞いて、「仲間がいる」とばかり、野生のトドが柵を越えて飛び込んできたようなのだ。1966(昭和41)年には実に7頭も飛び込んできた。1967(昭和42)年の時点で12頭のトドのうち、9頭は自発的にやってきたものだという(『北洋水族館』朝日新聞社編・1967年)。

トドというのは、巨体のわりに臆病で用心深いため、そうそう簡単に捕獲できるものではない。札幌の円山動物園は、園の目玉にしようと、大型のオリを使った罠を設置したり、睡眠薬入りの魚を用意したりして、躍起になったことがあるが、ついに果たせなかった。

それを思えば、勝手にやってきてくれるというのは、願ったりかなったりだと思われるのだが、実際はそうでもなくて、漁協から「水族館で飼っているトドの鳴き声が、回遊してくる仲間を呼び寄せて、沿岸の漁網にかかった魚を荒らす」とクレームが寄せられたこともある。その結果、冬場だけは山あいの朝里川温泉にある特別プールに飼育トドを隔離する騒動になったそうだ。

今でも柵を越えてやってくることがあるのか聞き損ねたが、いかにも北海道らしいエピソードである。

それにしても、さっきから本当にバチャバチャバチャバチャとうるさい。アザラシが例のパフォーマンスで、相変わらず観光客にサカナをねだっているのだ。

餌のバケツをのぞいてみた。魚が丸のままごろんと入っている。人間もアザラシも同じようなものを食べているな——とちょっとほほえましくなった。魚を媒介にして、観客と展示物にちょっとした一体感が漂う水族館だ。

おたる水族館
住所 北海道小樽市祝津3-303
TEL 0134-33-1400
開館 3月下旬〜11月は無休(12月〜2月末は冬期営業のため一部施設閉鎖。年末年始休館)
入館料 大人1300円、小中学生530円、幼児210円(冬期は大人1000円、小中学生400円、幼児200円)
交通 JR函館本線小樽駅よりバス25分
開館年 1974(昭和49)年
ワンポイント 冬期は休館だった同館だが、2011年度より通年営業を開始。冬期は海獣公園及び遊園地を閉鎖し、本館とイルカスタジアムのみの営業となる。