[感想後記]「妖怪博士」のコレクション/中野区立歴史民俗資料館「円了の世界旅行とおみやげ品」展

中野区立歴史民俗資料館

井上円了が、明治期に行った世界旅行や各地の講演旅行などで入手した品々を展示。中野区立歴史民俗資料館(東京都中野区)で、2018年9月30日まで

明治期の仏教哲学者で、東洋大学の創始者、井上円了(1858-1919)。「迷信の打破」を訴え、幽霊や妖怪を科学的に研究したことから、妖怪博士の異名をもつ人物だ。中野区立歴史民俗資料館(東京都中野区)で開催中の企画展「円了の世界旅行とおみやげ品」では、そのような円了が、明治期に世界5大陸をめぐる旅行をした際に入手した品々を中心に展示している(会期:2018年9月1日〜30日)。


中野区立歴史民俗資料館

円了が旅先で蒐集した信仰やまじないの道具。一番左は魔除け人形(朝鮮)

展示は書籍を除くほとんどが館蔵品で、全部で約800点あるうちの100点ほどを展示したという。信仰、生活道具、履き物、玩具などをジャンル別に展示しているので、海外品と国内品がランダムに登場する。

学芸員のギャラリートークによれば、円了は僧侶なので、信仰やまじないの道具に関心が強かったという。
会場でも、まずは仏像(台湾)や神農像(静岡県伊東市)、ビリケン、閻魔像などが並ぶ。朝鮮で蒐集したという魔除け人形は、衣服をまとった藁人形のような様相が人目を引く。
チベット仏教の仏具であるマニ車も並ぶが、当時チベットは鎖国中。どうやらインドのダージリンで、河口慧海(1866-1945・チベットへ密入国を果たした仏教学者)に出会い、その伝手で入手したのではないかとのことだった。

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海外品と国内品がランダムに登場する

また、円了は、生活必需品でも土産などの売り物になってないものに目を付けることが多く、「交換した」という記述が多い。どこでどう画策したのか、朝鮮で入手した便器もあった。
出身地の新潟で馴染み深い藁に関心があったのか、藁細工、雨具、靴にも興味を示したようだ。
とはいえ、いつどこで購入したということをちゃんと記載していないことが多く、そこが研究者泣かせだという。

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写真中央は長野県軽井沢名物(?)のスリッパ。左の竹製草履に至っては購入地もわからない

民俗や民芸品の類だけではなく、純粋な「観光旅行土産」もある。世界最北端の岬ノールカップ観光記念の木製スプーン(ノルウェー)などが典型的だ。「その価廉ならず」とあり、やはり記念品としてお高かったようだ。蒐集は明治44年のようだが、ツーリズムの発達と観光旅行土産の充実という視点からも興味深い。

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世界最北端の岬ノールカップ観光記念の木製スプーン(右)。今日よく見られる土産スタイルの走りだろうか。左は南米のマテ茶飲用に用いる瓢箪

どうみても土産ではないものもあり、髑髏に似た天然木なども並ぶ。煙草入れにも髑髏を模した物があり、円了はかなりスカルが好きだったようだ。「如意棒」と名付けた天然木の類や、特注して作らせたとしか思えないヘンな煙草入れもあり、円了の好奇心の趣くままに集められた様々な物が集積しているように感じられる。

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旅先で集めた天然木の類も並ぶ。国内で蒐集した物とみられる

ずるいのは、それらを自ら建てた哲学堂(現・哲学堂公園)で陳列公開していたというのだ。本でもお土産品でもコレクションでもなんでも、陳列場所を確保できることほど、うらやましいものはない。〈種々雑多のものを玉石同架式に配列し〉、あまつさえ〈汽車中の茶呑茶碗百数十個を陳列して置いた〉(展示パネルより)というからやりたい放題である。思わず嫉妬(?)を覚える。

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当時の哲学堂での陳列風景(2階の常設展示より)

円了は大学創設の寄付金集めと講演とで日本や中国大陸各地を飛びまわり、1919(大正8)年、講演中に具合が悪くなって、そのまま息を引き取った。そんな明治時代の学者兼コレクターの興味の方向性がうかがえる。

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円了が創建した哲学堂(現・哲学堂公園)。園内を逍遙し、哲学的鍛錬を積むことを目的としたらしい。なお、建物は通常、外観のみの見学となる。資料館から徒歩15分ほど

中野区立歴史民俗資料館「円了の世界旅行とおみやげ品」展
住所 東京都中野区江古田4-3-4
TEL 03-3319-9221
会期 2018年9月1日〜9月30日(9月3、10、16、24日休館)
開館時間 9:00〜17:00
入館料 無料
交通 西武新宿線沼袋駅より徒歩10分