世界初の人工雪[中谷宇吉郎雪の科学館]

中谷宇吉郎雪の科学館

 北陸の温泉の中心駅として知られるJR加賀温泉駅は、近代化されたターミナルで、温泉場という情緒に乏しい。この温泉駅からは、山代温泉、山中温泉といったそうそうたる北陸の名湯に行けるのだが、駅自体は完全に中継地点という感じだ。
 そんな北陸の名湯のひとつ、片山津温泉は駅からタクシーで10分ほど。 霊峰白山を望み、柴山潟という汽水湖の畔に広がるこぎれいな温泉街だ。

柴山潟とうきうき弁天@片山津温泉

 柴山潟は朝日や夕陽を受けて日に7度も湖面の色を変えるというのが売りで、湖には、浮御堂うきうき弁天(写真)という思わずうきうきしてしまうような弁天堂が浮き、観光客を歓迎する。

 この温泉街のはずれに、世界で初めて人工雪を作った中谷うきうきちろう…ではなかった、中谷宇吉郎(なかや・うきちろう/1900〜1962)を顕彰した中谷宇吉郎雪の科学館が建っている。

 宇吉郎はこの片山津温泉の生まれ。人工雪を作ったなどと聞くと、スキー場とかザウスの経営者の先代かと思ってしまうが、そうではなくて、純粋な物理学者。

中谷宇吉郎雪の科学館

 展示コーナーに降りて真正面に「雪は天から送られた手紙である」と書かれた掛け軸が。宇吉郎が残した名言で、一見、詩の一節みたいだが、それが実際どういう意味なのかは、コーナー中ほどの「VTRコーナー」で。

 このコーナーの解説によれば、雪の結晶は上空の気温などによって影響を受け、形が変わるという。なので、結晶を観察することで、上空の気象状況がわかるのだ。人工衛星による気象観測などない時分、高層の気象状況を知る手がかりとなる、まさに天からの手紙というわけだ。

人工雪生成装置@中谷宇吉郎雪の科学館

 そんな時代だけに、人工で雪の結晶を作り出し、結晶ができるメカニズムを解明したという功績は大きかった。館内には、1936(昭和11)年に初めて人工雪の結晶を作り出すことに成功した北海道大学の低温室が再現されている。室内の冷気を逃さないためなのか、壁はまるで蔵のように分厚い。
 人工雪生成装置を覗いてみると、ちょっとオーバースケールと思われるプラスティック製の、人工の人工雪の結晶(ややこしい!)がぶらさがっていた。

これがチンダル現象だ!@中谷宇吉郎雪の科学館 これがチンダル現象だ!@中谷宇吉郎雪の科学館

 ここのもうひとつの見せ物というふれこみのチンダル現象を係員に見せてもらう。
 これは、氷が溶ける時、光のエネルギーによって、氷の内部が雪の結晶と同じ様な形をして溶けていくもので、湖の氷や氷河に太陽の光があたったときなどにそういう現象が見られるという。
 薄くスライスした氷をシャレーにのせ、OHPで投影しただけという簡単なものだが、巧く氷をつくるのが難しくて「日本で見られるのはうちだけです!」とご自慢の逸品。よその科学館などでもチャレンジしているのだが、そうそう巧くはできてくれないらしい。
 宇吉郎はこのチンダル現象から氷の研究を進めたそうで、となれば、同館の名誉にかけてもこれはよそに先んじてなくばなるまい。

中谷宇吉郎雪の科学館

 チンダルを拝観したあと、中庭にでると、いきなり石庭が広がる。
 これは「グリーンランド氷河の原」を再現したもので、雪・氷・永久凍土の研究に邁進した宇吉郎の最後の研究がこのグリーンランドでの氷冠の研究だったという。北緯78度の極地から運ばれてきた60トンもの石が、極寒の地を再現する。
 吹き上げているのは、演出用の人工霧で、温泉ではない。

中谷宇吉郎雪の科学館から望む柴山潟

 中庭の突き当たりは眺めのよい喫茶コーナー。そのむこうには、晴れ渡った空の下に青々とした柴山潟が広がっていた。
 中谷宇吉郎生誕100年にあたる2000(平成12)年の冬は、北陸地方はひときわ天からの手紙が多かったという。

 
 

中谷宇吉郎雪の科学館
住所 石川県加賀市潮津町イ106番地
TEL 0761-75-3323
開館 9:00〜17:00(祝日を除く水曜日休館)
入館料 一般500円、75歳以上250円、高校生以下無料
交通 JR北陸本線加賀温泉駅よりタクシー10分
ワンポイント 雪をイメージした六角形の建物は磯崎新の設計。