[感想後記]改めて知る花粉の歴史とその効用/国立科学博物館「花粉と花粉症の科学」展

国立科学博物館「花粉と花粉症の科学」展

「花粉と花粉症の科学」展は、国立科学博物館・日本館にて開催中。2017年3月20日まで

東京・上野の国立科学博物館では、2016年12月23日〜2017年3月20日の会期で企画展「花粉と花粉症の科学」を開催している。
まず「花粉の誕生」と題して植物化石の展示からスタート。これは花粉症まで大分先が長そうだ……。


国立科学博物館「花粉と花粉症の科学」展

三畳紀やジュラ紀の植物の葉や雄性生殖器官の化石なども展示

植物も精子が水中を泳いで受精する。コケやシダ類は現生種でもこの様式だ。ただ、これだと受精には水を必要とする。植物が進化の過程で陸上へと進出した際、精子に代わるものとして花粉を誕生させた。花粉は、熱や乾燥に強いスポロポレニンという高分子化合物の壁を持ち、空気中を飛散することが可能になったという。

給食のセットがあるので何かと思ったら、花粉の栄養素の話。ヤマユリの花粉は、サンマの焼き魚でご飯を食べるのと同じ割合の栄養価があるそうだ。植物は昆虫やコウモリなどの動物に花粉を運んでもらうと同時に、花粉をエサとしても提供しているわけだ。

国立科学博物館「花粉と花粉症の科学」展

花粉の一般的な組成は、水分9〜20%、タンパク質19〜28%、糖質18〜23%、脂質1.2〜16%、ビタミン・ミネラルなど1.6〜10%で、「学校給食」のようにバランスがよいという

このようにしてまき散らされている花粉だが、前述した花粉の「壁」は分解されにくい物質であるがために、化石として残りやすい。次なるコーナーでは、花粉化石による植生史の研究として、高知平野や富士川河口の事例が紹介されている。特に後者ではボーリングコアに含まれる花粉化石の変化から断層帯の活動時期を推定するという研究が行われている。

即ち、ボーリングコアを分析すると、水辺に生える植物(セリ科やオカダモ属、ヤナギ属など)が増え、陸生植物が減少する時期がある。これは水位が急上昇したことを意味しており、富士川河口断層帯で地震が発生し低地が沈降したと考えられる。

それらを南海トラフの巨大地震の発生と比較すると、1361年の正平地震、1096年の永長地震、684年の白鳳地震の近い時期に沈降が起きたことがわかった。富士川河口断層帯は南海トラフの東方延長上にあり、断層帯との活動の関連が研究されているそうだ。

国立科学博物館「花粉と花粉症の科学」展

花粉化石から環境の変化や地震などの地殻変動の痕跡をさぐる研究も行われている。奥の棒状の物はボーリングコアのサンプル

そして生薬としての花粉などの展示(ガマの花粉では、因幡の白ウサギ神話にも言及)のあと、花粉顕微鏡写真のコーナーへ。「花粉症を引き起こす世界の植物」の展示パネルは、ボタンを押すと「ハクション!」というくしゃみの音が響いて、分布エリアが表示される(細かいところに妙な工夫を……)。

国立科学博物館「花粉と花粉症の科学」展

「花粉症を引き起こす世界の植物」の展示パネル。ボタンを押すと「ハクション!」というくしゃみの音が響く

花粉症は19世紀初頭にhay fever(枯草熱)として報告されたのが初という。日本では、1938(昭和13)年に、菌類学者の今関六也が、アメリカで報告されていたhay feverを花粉熱として一般向けに紹介した。

当時日本に花粉症はほとんどなく、その後、1961(昭和36)年にブタクサ、1964(昭和39)年に「栃木県日光地方におけるスギ花粉症の発見」という論文で、スギ花粉症の症例が報告された。

スギ花粉症の測定は早くも翌年の1965(昭和40)年から、国立相模原病院(神奈川県相模原市)で始まっている。この長期にわたって蓄積されたデータは、日本の花粉症研究にとって極めて重要なものになっているという。
なお、スギやヒノキの花粉が増えたのは、戦後になって森林再生や木材供給のため多量に植樹した木々が壮齢期になり、多量の花粉を出すようになったためとみられる。

国立科学博物館「花粉と花粉症の科学」展

お待ちかね(?)の花粉症を引き起こす植物標本と花粉の顕微鏡写真

最後の「花粉症の対策」はよく聞く一般的な話(家に花粉を持ち込まないように等々)だが、無花粉スギの開発やカビやキノコを使って雄花を枯死させる最新研究のパネル展示などもある。
花粉化石による植生史の研究や花粉の栄養素の話などが興味深い。花粉症への即効性はないけれども、花粉の効用や研究成果を知ることができる。

ただ、現在の花粉症の隆盛は、戦後の植林事業や林業の置かれている現況とも無関係ではないだろう。日本中のスギやヒノキをすべて伐採してしまえば問題は解決して、これで終わりというものでもない。その点について、観覧者にこれからの植林や林業をどうしていくかという、問題意識を呼び起こす展示あるいはパネルが若干でも欲しかった気がする。

国立科学博物館「花粉と花粉症の科学」展

最新研究はパネル展示がメインだが、無花粉スギや雄花を枯死させる研究が進んでいることが紹介されている

国立科学博物館「花粉と花粉症の科学」展
住所 東京都台東区上野公園7-20
会期 2016年12月23日〜2017年3月20日
開館時間 9:00〜17:00(金・土曜は20時まで)
観覧料 常設展料金(一般620円)で観覧可
交通 JR山手線上野駅より徒歩5分