[感想後記]便器に広がる花鳥草木の世界/Bunkamura Gallery「染付古便器の粋—青と白、もてなしの装い」展

Bunkamura Gallery「染付古便器の粋—青と白、もてなしの装い」展

木製の便器にかわって普及した焼き物の便器のうち、染付古便器と呼ばれる高級仕様の優品を紹介

明治が後半にかかる頃、〈清々しい便器〉(LIXILニュースリリースより。以下同)なるものが登場した。それまでの木製便器にかわって焼き物の便器が普及していくなかで、高級品として製作された「染付古便器」と呼ばれる陶磁器製の便器だ。

〈花鳥や草木などの文様を「青と白」の染付で華やかに描いた染付便器は、旅館・料亭の主人をはじめ富裕層の人々の心を捉え一世を風靡し〉、〈「ご不浄」とも呼ばれた、暗くて人目をはばかる便所の空間を、視覚的に清らかな「もてなしの空間」へと変えた〉という。それらの便器が一堂に会したのが、この企画展だ。


Bunkamura Gallery「染付古便器の粋—青と白、もてなしの装い」展

白地の素地に呉須(ごす)で絵付けをしている

同展は、株式会社LIXILによる文化活動の一環として企画され、INAXライブミュージアム(愛知県常滑市)のコレクションから構成されている。LIXIL、とりわけ同社の前身企業のひとつであるINAXの企業魂が炸裂した企画と言える。現在、INAXライブミュージアムのうち、「窯のある広場・資料館」は耐震工事で休館中(2016年12月より)。そのため、古便器が大挙上京する機会に恵まれたのだろう。

Bunkamura Gallery「染付古便器の粋—青と白、もてなしの装い」展

現在、和風便器として知られている小判形大便器は、1879(明治12)年頃、瀬戸で誕生した

陶器製便器の起源は江戸安政年間にまで遡る。この頃から瀬戸(愛知県)や常滑で作られ始めた。1879(明治12)年頃、瀬戸で小判形大便器(現在の和風便器)が誕生。1891(明治24)年の濃尾地震以後は復旧家屋用として陶器製の便器が普及した。

Bunkamura Gallery「染付古便器の粋—青と白、もてなしの装い」展

朝顔形と呼ばれる男性用小便器に朝顔を描いたもの

とりわけ、瀬戸で作られた染付便器は全国的な人気を博し、有田(佐賀県)や平清水(山形市)も参入してくる。染付便器の黄金時代の出現だ。
やがて昭和に入ると、白磁の便器への関心が高まり、染付便器の人気は徐々に衰退。1937(昭和12)年頃には瀬戸でも染付便器が作られなくなった。

陶磁器の技術の普及向上と、人々の衛生関心の高まりとが交錯した瞬間に花開いたのが、染付便器と言うわけだ。

Bunkamura Gallery「染付古便器の粋—青と白、もてなしの装い」展

タイルとあわせたコーディネイトが考えられていることがわかる

会場の一角には原寸大の厠が復元されている。明かり採りの窓からやわらかな光が降り注ぐ様子は、憩いと安らぎの空間のようだ。染付便器だけを据え付ける場合もあるが、富裕層の邸宅などではタイルも一緒にコーディネイトして、高級感&清潔感を演出したことがうかがえる。

便器の向きが固定されているため、会場でも撮影しづらいのだが、本来の利用者目線になったとき、便器の内側にも鮮やかな花鳥草木の世界が広がっていることに気付かされる。同展は、単に外観の美しさ、清潔さだけではなく、このようなところに〈もてなしの心〉〈しつらえの美〉を見出している。

Bunkamura Gallery「染付古便器の粋—青と白、もてなしの装い」展

Bunkamura Gallery「染付古便器の粋—青と白、もてなしの装い」展

利用者目線になったとき、初めて目に映る文様もある

それにしても、形状や年譜のパネル解説がちゃんと整っているところはさすがメーカーである。
LIXILグループの総力を結集すれば、染付古便器のみならず、大トイレ展とか大台所展とかできそうだ。日常のあらゆるものに歴史があることを知る、いい展覧会になりそうだが、どこかの博物館とタッグを組んだりはしないだろうか。

Bunkamura Gallery「染付古便器の粋—青と白、もてなしの装い」展

Bunkamura Gallery「染付古便器の粋—青と白、もてなしの装い」展

Bunkamura Gallery「染付古便器の粋—青と白、もてなしの装い」展
企画展サイト http://www.bunkamura.co.jp/gallery/exhibition/161228kobenki.html
住所 東京都渋谷区道玄坂2-24-1
会期 2016年12月28日〜2017年1月9日
開館時間 10:00〜19:30
休廊日 1月1日
観覧料 無料
交通 JR山手線渋谷駅より徒歩7分
ワンポイント 同展は2007年のINAXライブミュージアム企画展「染付古便器の粋」を再構成したもの。INAXミュージアムブックから、『染付古便器の粋—清らかさの考察』(2007年)が刊行されている。同書は稀代のトイレ写真集にもなっている。