バナナの人望を施設名に託す[熱川バナナワニ園]

伊豆高原、というと「高原」という文字から開放的な感があるが、そこから南——東伊豆町から下田にかけては、そんなイメージとはちょっと違ってくる。

天城山からの急峻な山脈が海岸まで容赦なく押し寄せ、伊豆急行はそれをいくつものトンネルと小刻みなカーブでかわしながら、山々の谷あいに広がるわずかなスペースに駅をつくって停車していく。大川、北川、片瀬…とその谷ごとに「温泉」を名乗り、斜面にへばり付くように旅館やホテルがひしめいている。


もし、目の前の海が黒潮に満ちた相模灘でなく、北の海から流れてくる寒流だったとしたら、「越冬つばめ」とか「悲しみ本線日本海」といった演歌でもが似合うような温泉地になったに違いない。

が、幸いにして、気候も温暖な東伊豆である。その地形の険しさとは裏腹に、斜面にはミカンが鈴なりになり、温泉の地熱を活かしたカーネーションなどの促成栽培が行われ、ソテツなどの亜熱帯植物が繁り、南国ムードをもり立ててくれる。

そんな東伊豆一帯でその南国ムードの牽引役となっているのが、この伊豆熱川温泉の「熱川バナナワニ園」だ。

熱川は、ほかの東伊豆の温泉と同じく、海のすぐそばまで谷の急斜面が迫り、そこにしがみ付くようにホテル群が立ち並んでいる。バナナワニ園も、そんなホテルに混じって、斜面にしがみ付いているのである。

というわけで、伊豆熱川駅を降りて、坂道をてくてくと2〜3分登る。
ここには24種約200頭のワニが世界各地から集められている。この種類数は世界一なのだという。

ワニが、まるで池のカメのように、おしあいへしあいしながら、お互いの上に乗ろうとしている様は見ていて飽きない。冷血動物だから体温が温かくなるまで動けないので、甲羅干し(?)をしているわけだが、やはり他人の背中の上の方が、暖まっていて気持ちがいいと見えて、互いに上にいこうとして、ぎゅうぎゅうやっている。

そのほかの熱帯植物園コーナーも見応えがある。

蔓系の熱帯植物から、トロピカルフルーツの類、やたら巨大なシダに、サボテンや熱帯スイレン、洋ランまで、土地の狭い熱川の急斜面にぎっしりと温室が連なっている。分園では、ゾウガメが悠然と散歩し、レッサーパンダがうとうとと昼寝などをしている。

そこここから、ボーリングによる蒸気が吹き出していて、ここが温泉場であるということを思い出させてくれる。温泉とトロピカルという取り合わせは、ありきたりではあるけれども、やっぱりいい感じだ。

もちろん、「バナナ」も忘れるわけにはいかない。バナナは植物としてはではなくなのだが、たしかにこうやって生えているバナナを眺めていると草のような生え方をしている。
その間をうろうろと散策していると、自分たちがアリのように小さくなったような気がしてくる。

ところで、パンフレットに載っていた熱川バナナワニ園の英訳は「ATAGAWA TROPICAL & ALLGATOR GARDEN」。その意味では、パイナップルワニ園でもマンゴーワニ園でもよかったわけだが、あえて「バナナ」を選んだところに時代性を感じる。

その昔、「バナナ」はお見舞いや進物にするほど高級且つ滋養に富んだ果実で、その人気たるや今日のマスクメロンなどの比ではなかった。

日本に持ち込まれたのは20世紀初頭。第1のピークは大正時代、当時日本領の台湾から運ばれた台湾バナナが主流だったが、戦争中は姿を消す。第2次大戦後、やっとバナナが出回りだしたのは1948(昭和23)年。1本40〜50円で、当時のタバコ1箱の5倍の値段だ。これが房になっていれば、進物としてお値段的にも堂々たるものである。

1963(昭和38)年になってやっと輸入自由化。70%という高関税率にもかかわらず、その5年後にはアメリカについで世界第2位のバナナ輸入国になったというから、日本人のバナナ好きがうかがえる。

このバナナワニ園は、進物輸入自由化の間にあたる1958(昭和33)年に開園。まだまだ「くだものの王様」の地位を維持していたころで、そんな人望(果望?)が、トロピカルを想起する語の代表として選ばれたのだろう。
これなど、当時の時代背景を知らないと、何でバナナとワニなのか、というのが、一生ナゾで終わるところだ。

……そう考えてみると、よしもとばななというのも、親がトロピカルへの憧れと高級感を意識してつけた名前なのかもしれない(って、あれ本名かいっ!!)。

熱川バナナワニ園
住所 静岡県賀茂郡東伊豆町奈良本1253-10
TEL 0557-23-1105
営業時間 8:30〜17:00(年中無休)
入園料 大人1300円、幼〜中学生650円
交通 伊豆急行伊豆熱川駅より徒歩3分
開園年 1958(昭和33)年
ワンポイント ワニのほかに動物好きに人気なのが、レッサーパンダ。レッサーパンダは中国系とヒマラヤ系に分類されるが、同園で飼育しているのは、ヒマラヤ系のニシレッサーパンダで、日本で唯一の飼育施設となっている。