[感想後記]邸宅の造形をじっくり楽しむ/東京都庭園美術館「アール・デコの邸宅美術館」展

東京都庭園美術館

庭に面した大客室。通常の企画展では展示会場となることが多いが、今回はゆったりとした邸宅が演出されている

東京都庭園美術館では、2015年7月18日〜9月23日の会期で「アール・デコの邸宅美術館」展を開催する。それに先立ち、特別鑑賞会(内覧会)が7月16日に行われた。
この企画展は、普段は美術品を展示するハコとなっている建物(旧朝香宮邸)そのものを鑑賞する、建物公開事業の一環として行われる。

同様の試みは過去何回か行われてきたが、今回の大きな特徴は、美術館所蔵の家具や調度品などに加え、イセ文化財団などの各種コレクションを用いて、邸宅としての空間の再現を試みたことにある。

東京都庭園美術館

美術館本館(旧朝香宮邸)は、2011年からの3年間にわたる改修工事で、外壁や壁紙などが修繕され、より創建当時の姿に近くなった

東京都庭園美術館の本館、即ち、旧朝香宮邸は1933(昭和8)年に竣工した。
アール・デコとは、1910年代から30年代にかけて、ヨーロッパを席巻した装飾様式で、それまでの煉瓦や石に代わって、外壁にタイルやテラコッタ、インテリアにガラス、陶磁器、合金、合板など、近代的な工業製品を用いている点が特徴的だ。そのため、従来の煉瓦などがメインの建造物に比べて、内観・外観とも、金属や結晶のような光沢をまとい、それが見る者に強い印象を与える。

東京都庭園美術館・香水塔

次間(つぎのま)の香水塔も、改修工事の際にオーバーホールされ、竣工当時の白磁の輝きが復活した

この邸宅がアール・デコの様式を取り入れたのは、施主でもある朝香宮鳩彦(1887-1981)が、ヨーロッパ滞在中に夫妻で1925年のパリ万国装飾博覧会(アール・デコ博)を訪れ、強い感銘を受けたことによる。
帰国後、やはりアール・デコ博を訪れていた宮内庁技師・権藤要吉(1895-1970)が基本設計を、そして、アール・デコ博のデザイン部門の責任者であったアンリ・ラパン(1873-1939)がインテリア・デザインを担当して、新邸建築が進められた。

その結果、アール・デコの隆盛からすれば、昭和8年というのはいささか季節はずれではあるものの、パリを遠く離れた日本の地に世界でも最も純度の高いアールデコ大輪の花が一輪咲いたのである(藤森照信『日本の近代建築(下)』1993年)。

東京都庭園美術館

邸宅と同時代のソファやティーセット、花瓶、インク壺、灰皿などの小物を用いて居住空間が再現されている

そういう歴史的背景を持つ邸宅空間の再現は、邸宅と同時代のソファ、椅子、ティーセットなどを用いて行われている。

しかも、東京都庭園美術館は通常撮影禁止だが、この企画展は平日に限り、本館(旧朝香宮邸)の撮影がOKなのである。
「けっ、平日なんて行けるわけないじゃないか」といじけてる方もおられるやと思うが、会期中、毎週金曜は21時まで開館するのだ。夕闇の迫る邸宅の光景を存分にカメラへ収めることができよう。

東京都庭園美術館

それぞれの部屋に配された調度品を眺める楽しみもある

同時にこれは、部屋のこまごまとした造形をじっくり観察するチャンスでもある。
普段の展覧会だと展示ケースなどが置かれて、どうしても部屋の隅などを眺めることが難しい。
が、今回は、本来の邸宅として使われていることをイメージして調度品が配置されているので、窓の金具やバルコニーのタイル、ガラスや壁紙などを、丹念に、あるいは生活者目線で、眺めて楽しむことができる。

東京都庭園美術館

人気スポットの1階の大食堂。今回は食器類も再現

1階の大食堂は、建物全体が丸みを帯びた特徴的な造りになっている人気スポットであるが、食卓の上だけではなく、天井のライトにも注目したい。

東京都庭園美術館

大食堂の照明「パイナップルとザクロ」は、ルネ・ラリックの制作による

フルーツポンチかなにかのように見える。パイナップルとザクロをあしらったもので、これでゼリーの型どりしたら美味しそうだ。

東京都庭園美術館

第2階段踊り場の照明。ステンドグラスが天井を彩る

宮様の邸宅だけあって、部屋数も多く、廊下などのスペースも潤沢であるが、各々の照明に注目してまわってみるのもいい。
この第2階段踊り場の照明は、天井に映し出されたステンドグラスの色合いが、幻想的な気分にさせてくれる。

東京都庭園美術館

鎖のシルエットが効果的な照明器具

こちらの照明は、鎖が四方に影を投げて、天井にアクセントを添えている。このような照明は、天井に映し出される陰影を計算に入れて設計されたに相違ない。この、天井に映る影をも楽しむというのは、なんとも心豊かな気分にさせてくれる(と、いまこの文章を書いていて、陋屋の天井を見上げたら、どこまでも能天気に明るいLED照明がへばりついていて、ちょっと悲しくなった)。

東京都庭園美術館

妃殿下寝室の壁面に埋め込まれた、暖房器のラジエーターカバー

天井の縁にある通風口や、壁面の暖房のラジエーターカバーにも注目してみたい。通風口など、普段、展覧会の展示を見ている限りはあまり気にも止めない部分であるが、しっかりと意匠が施されている。
さらに、妃殿下寝室(2階)の暖房器のラジエーターカバーは、朝香宮妃自身のデザインによるというから、施主夫妻がいかにこの建物に強い関心を抱いていたかがわかる。

東京都庭園美術館

ベランダの床は国産の大理石。右のイスは見学客の休憩用で、庭園が一望できる

上を見たあとは床を向いて歩こう。2階のベランダは、国産の大理石で造られたという市松模様の床が、訪れた人の印象に残る。

東京都庭園美術館

窓越しに覗いたバルコニーのタイル

こちらはバルコニーのタイル。通常の展示だと、展示ケースなどが置かれているため、窓辺に寄れないことが多いが、今回はじっくりと窓に貼りついて、その色合いを眺めることができる。

東京都庭園美術館

室内に溶け込むように置かれている「展示品」の数々

「あれ、こんな所に絵なんてあったっけ?」と思ったら、この絵やサイドテーブルも今回のための展示であった。前に来たことがある人も楽しめる趣向だ。

東京都庭園美術館

北側ベランダのガラスは表面にゆるやかな凹凸を持つ

館内をまわっているうちに、夜のとばりが降りてくる頃合いになった。外光の色合いや室内の明かりもいい感じになる。

東京都庭園美術館

このほか、大広間脇の第一応接室や小客室にも応接の再現がされているので、見逃さないようにしたい

先にも触れたように、会期中の金曜日は夜21時まで開館する。金曜の夕刻に訪れて、夕闇に包まれる様を眺めながら、お気に入りの空間を求めて逍遙するというのが、週末の始まりにふさわしい、ぜいたくな過ごし方かもしれない。

東京都庭園美術館「アール・デコの邸宅美術館」展
住所 東京都港区白金台5-21-9
TEL 03-5777-8600
会期 2015年7月18日〜9月23日
開館時間 10:00〜18:00(金曜日は〜21:00)
休館日 第2・第4水曜日(祝日の場合は開館し、翌日休館)
観覧料 一般800円、大学生・専門学校生640円、中高校生400円
交通 JR山手線目黒駅より徒歩7分
ワンポイント 会期中は平日のみ、美術館本館(旧朝香宮邸)内での写真撮影が可能