[感想後記]幕末から明治へたどる、一組の夫婦の同時代史/江戸東京博物館「NHK大河ドラマ特別展 花燃ゆ」

ドラマの展開に応じた構成で、歴史資料が配されている。写真は下関戦争で使用された大砲

ドラマの展開に応じた構成で、歴史資料が配されている。写真は下関戦争で使用された大砲

吉田松陰の妹・杉文(1843-1921)を主人公とするNHK大河ドラマ「花燃ゆ」に関連した企画展が、江戸東京博物館(東京・両国)へ巡回中だ(会期:2015年6月4日〜7月20日)。それにともなって、6月17日にブロガー内覧会が行われた。


杉文とその兄弟の写真。写真はいずれも明治〜大正時代に撮影された

杉文とその兄弟の写真。写真はいずれも明治〜大正時代に撮影された

会場は、まず幕末長州藩の概略紹介に始まり、松陰所用の品々や手紙とともに、家族の写真が展示されている。松陰自身は写真を残すことはなく、それらの家族の写真は明治時代以降になってから撮影されたものである。

「当時の武家の、家族も含めた顔を知ることができます。杉文や松陰といったドラマの登場人物を離れて、武家の家族とはどういう人々だったのかという、人物写真として見ても興味深い資料です」と、内覧会でギャラリートークをしていただいた田原昇・江戸東京博物館学芸員。

松下村塾を模したコーナー。奥に見えるのは松下村塾で使用された机とテキストの『講孟余話』

松下村塾を模したコーナー。奥に見えるのは松下村塾で使用された机とテキストの『講孟余話』

松下村塾を模したコーナーでは、フロアーを畳風にしつらえ、当初八畳一間、増築して十八畳だった松下村塾の大きさを体感できる。明治期まで実際に使われていた木製の机、塾で使用する原稿用紙を刷るための版木、珍しいところでは帳簿(「松下村塾食料月計」)などが並ぶ。「これらは江戸末〜明治期の教育現場における生の資料でもあります」と、田原学芸員。

松陰のイメージを決定づけることになる、自賛肖像画

松陰のイメージを決定づけることになる、自賛肖像画

人目を引くのは、会場に架けられた6幅の松陰の自賛肖像画だろう。江戸東京博物館に先行する同展の萩会場(山口県立萩美術館)では6幅すべてがそろったというが、ここでは1幅はパネル、1幅は複製である。

松陰は1859(安政6)年5月に江戸へ護送され、5か月後に刑死する。この肖像画は、江戸への護送を前に形見として与えたとされ、以後松陰のイメージを決定づけることになる。これらの風貌や賛などが比較検討されており、肖像画に関心のある人には興味深いことだろう。

江戸東京博物館のミュージアムショップに並ぶ、松陰をあしらった土産品

江戸東京博物館のミュージアムショップに並ぶ、松陰をあしらった土産品

なお、こうして形作られた松陰先生像は、博物館の売店で山口県の特産品などを売るべく頑張っておられる。

四国連合艦隊に戦利品として接収された大砲。1844(天保15)年の造。後ろの展示は奇兵隊写真、周布政之助肖像など

四国連合艦隊に戦利品として接収された大砲。1844(天保15)年の造。後ろの展示は奇兵隊写真、周布政之助肖像など


高杉晋作所用と伝えられる道中三味線(ケース左側)は東京会場のみの展示

高杉晋作所用と伝えられる道中三味線(ケース左側)は東京会場のみの展示

さらに、下関戦争の際、戦利品として連合軍に接収された長州の大砲(「荻野流壱貫目青銅砲」仏アンヴァリッド軍事博物館/下関市寄託)や、高杉晋作が所用したと伝わる三味線、瓢などが展示されている。なお、この三味線は東京会場のみの展示品である由。

楫取素彦の手紙展示に添えられた好物についてのパネル

楫取素彦の手紙展示に添えられた好物についてのパネル

後半は、時代は維新後となり、文の姉の夫で、のちに文と再婚する楫取素彦(かとり・もとひこ)の群馬県令時代の資料が続く。下関から好物の河豚(フグ)の煮染めを送られたものの、船便の手違いで腐ってしまい「郷味渇望の処 無詮腐敗残念無限」と記した手紙や、文の最初の夫である久坂玄瑞から文に宛てた手紙を巻子に仕立てたものなどが展示されている。こういう所々に人間くささを覗かせているのが、この手の展覧会の面白いところでもある。

久坂玄瑞が旅先から文に宛てて送ってきた手紙を、維新後、巻子に仕立て「涙袖帖」と称したもの(複製)。玄瑞は禁門の変(蛤御門の変)で自刃したため、文が送った手紙は現存しない

久坂玄瑞が旅先から文に宛てて送ってきた手紙を、維新後、巻子に仕立て「涙袖帖」と称したもの(複製)。玄瑞は禁門の変(蛤御門の変)で自刃したため、文が送った手紙は現存しない

どうしても大河ドラマの展覧会として、脳裏に俳優の顔をちらつかせながらドラマの筋をなぞるように見てしまいがちだが、武家に生まれ、ともに相手と死別して再婚した一組の夫婦の同時代史として見てみると、また資料の趣も違ってくる。

現在生きているすべての人々は、その先祖が(場所や立場は異なっていたであろうが)必ずこの時代を通過してきたわけで、一組の夫婦の同時代史から「自分たちの先祖の場合はどうだったのだろうか?」と思いを馳せるとき、ドラマの感想とはまた違った感慨が呼び起こされるのではないだろうか。

江戸東京博物館「NHK大河ドラマ特別展 花燃ゆ」展示会場

江戸東京博物館「NHK大河ドラマ特別展 花燃ゆ」展示会場

※会場内での写真撮影は不可。掲載の写真は内覧会の際に、展覧会紹介を目的として撮影したものです。

江戸東京博物館「2015年NHK大河ドラマ特別展 花燃ゆ」
住所 東京都墨田区横網1-4-1
TEL 03-3626-9974
会期 2015年6月4日〜7月20日
開館時間 9:30〜17:30(土曜日は〜19:30、7/17は〜21:00)
休館日 7/20を除く月曜日
観覧料 一般1350円(1560円)、大学生・専門学校生1080円(1240円)、高校生680円(780円)※()は常設展共通券
交通 JR総武線両国駅より徒歩3分