[感想後記]土器型クッキー「ドッキーを作ろう」—横浜市歴史博物館ワークショップ

「ドッキーを作ろう」@横浜市歴史博物館

土器片を模したクッキー「ドッキー」を作るワークショップが、2015年5月17日に横浜市歴史博物館で開催されたので、取材をさせていただいた。
ドッキーはお菓子作り考古学者のヤミラ氏が、「お菓子を作って、楽しみながら考古学を学ぶ」ことを目的として手がけているもので、クッキー生地に色や縄模様などを付け、遺跡から出土した土器片のようなクッキーを作る。

同館でも2014年に、できあがったクッキーを配布するイベントを行ったことはあるが、製作から手がけるワークショップの開催は博物館では初めてとなる。

「ドッキーを作ろう」@横浜市歴史博物館

ヤミラ氏によると、ドッキーには本気系ドッキー、雰囲気系ドッキー、アート系ドッキーの3種類がある。
雰囲気系とは文字通り、それらしく似せたもの。アート系は「縄文時代にスマホがあったら、こんな文様になったのでは?」というように、想像力を羽ばたかせて、アートとして作るもの。

「ドッキーを作ろう」@横浜市歴史博物館

そして今回は、本物そっくりを目指す本気系を作成する。
まずは実物の観察からということで、会場には、観察用に縄文前期、中期、後期、弥生の4種類の土器が用意されている。ホンモノを観察しながら作るので、土器を触った手でクッキー生地を触ったりしないように、ビニール手袋は欠かせない。

「ドッキーを作ろう」@横浜市歴史博物館

クッキー生地に、ココアパウダーや食用竹炭を混ぜて色を付けていく。
竹炭は色が強く出るので、うっかりイカスミみたいになってしまわないよう、様子を見ながら少しずつ足していく(薬味はなんでも全部ぶち込むというタイプの人はご注意)。

土器には焦げた黒い部分が見られることがあるが、これは黒い生地を別に作り、それを貼り付けて表現していく。
また、弥生時代の土器などにベンガラなどの赤い顔料を用いているものがあるが、これを再現する場合には、クッキーが焼き上がった後に食紅で彩色するとよい。いかにも儀礼用という感じの、特別な雰囲気をまとったクッキーとなる。

「ドッキーを作ろう」@横浜市歴史博物館

着色用のパウダーのほかに、クルミやアーモンド、ゴマなどを細かく砕いて混ぜる。
これは土器の内部に混ざっている砂礫を表現したものだ。
本物の土器を焼く時には、粘土だけだと割れてしまうので、砂礫を混ぜているのだが、縄文人も自分たちの生活の知恵が後世こんな形で模倣されているとは、知るよしもなかったろう。

さて、生地の色が整ったら、ラップを敷いてめん棒でのばしていく。生地の厚さは5〜8mmほどがよい。
この時、ラップに横のシワをつけておくことを忘れないように。これが、土器の内側の擦痕に似た仕上がりになる。

「ドッキーを作ろう」@横浜市歴史博物館

こうしてできた生地に文様を付けていくわけだが、焼き上がりはちょっと膨らむので、文様は強めに付けるのがコツ。文様をつける道具は、実際の土器と同様、撚り紐(よりひも)やこれを丸棒に巻き付けた撚糸文(よりいともん)、さらに竹やストローなど中空のパイプを利用する。

どのような紐にすれば、どんな文様が付くかということについては、土器の文様についての説明が意外と役に立つ(例えば、市原市埋蔵文化財調査センター「発掘ってなあに 第3号縄文土器篇」18〜23ページなど)。

「ドッキーを作ろう」@横浜市歴史博物館

文様をつけたら、生地をカッティングする。土器は基本的に水平に割れるので、まず水平にカットした後、縦方向にランダムに切ると、それらしい割れ方になる。
こうして細分したドッキーは、1枚ずつ、縁を少しまるめて整形し、土器片が風化して摩耗した感じを出す。このあたりは、手元に本物の土器片を置いておくと、様子がわかりやすい。

そしてオーブンにいれて、焼き上がりまでしばし待つ。その間、横浜市歴史博物館学芸員により、土器片が土器のどの部分にあたるのかを推測するポイントや、実際の土器の焼け焦げについてのレクチャーが行われた。

「ドッキーを作ろう」@横浜市歴史博物館

煮炊きに使われたと思われる土器には、外側には煤や吹きこぼれの痕、内側にはコゲが残っている。そこで同じタイプの土器を作り、実際に調理実験をしてみることで、その痕跡を比較し、当時どのような調理が行われていたのかを突き止めようとする研究が行われている。

それらの実験の結果、例えば縄文土器の底部に残るコゲは、土器を残り火で空焚きした際に付いたものであり、当時は調理後に水洗いなどしていなかったのではないかとの説が提唱されている。

また、弥生土器で現代のコメを調理するとコゲができるが、実物の弥生土器には同様のコゲは見られない。これはコメが現代のもちもちしたものと異なり、粘りのないパサパサなものであった可能性があるという。

土器に付いている痕跡は、縄目だけではない。コゲひとつでここまで研究が広がっているのだ。

「ドッキーを作ろう」@横浜市歴史博物館

このほか、土器作りには欠かせない撚糸文の作り方講座などを経て、ドッキーの焼き上がり。ワークショップ参加者の全作品が無事に焼き上がった。
おそらく、色の濃い土器を作成した方にはココア味の風味が、土器のごろごろした感じを表現した方にはアーモンドなどナッツ類の香ばしさが口に広がったことだろう。
これら、一連の手順はヤミラ氏のクックパッドにも掲載されている。

「ドッキーを作ろう」@横浜市歴史博物館

土器片そっくりのクッキーを作るためには、いかにして似せるかという視点から土器を観察する必要がある(普段、こういう視点から土器をまじまじと観察することはない)。「この文様に似せるためには、撚り紐などをどのように用いればいいのか」など、観察の大切さを実感させられる。
と同時に、土器のコゲひとつから何がわかるのかという、観察のおもしろさも実感できるワークショップだった。

ヤミラ氏は現在も新商品(?)の開発に余念がなく、槍先型尖頭器の石器飴や、貝塚をイメージした作品の研究中だそうである。これらもいずれ、ワークショップやイベントなどで目にする機会があることを期待したい。

「ドッキーを作ろう」@横浜市歴史博物館