硫化鉄でできた体をもつ深海生物[ウロコフネタマガイ(スケーリーフット)]

インド洋の深海底熱水活動域に生息する、硫化鉄でできた鱗をもつ巻き貝。
2001年4月にインド洋のカイレイフィールド(水深2420〜2450m)で、アメリカの研究チームによって発見された。
通常の巻き貝とは異なって蓋がなく、かわりに鎧のような鱗で覆われた足がある。これをすぼめて身を守ると考えられているが、この鱗が、鉄とイオウを原材料とする硫化鉄でできており、体の一部が硫化鉄でできた世界初の生物として報告された。通称「スケーリーフット」(鱗のある足)と呼ばれている。
特異なのは外観だけではない。食道にあたる部分が袋状になっており、ここに共生微生物が生息している。貝は、この共生微生物によって硫化水素や二酸化炭素を化学合成して必要な栄養を得ており、熱水活動域に多く見られる化学合成生物である。
2006年2月、海洋研究開発機構などの研究調査で、この貝を生きたまま採集し、飼育することに成功した。しかし、3週間ほど生存したものの、日が経つにつれ活動が見られなくなり、殻や鱗には錆が生じたという。
これらの殻や鱗は鉄分を含むため、磁石を近づけると吸い寄せられる様子が観察できる。
ウロコフネタマガイは、限られた地域にごくわずかな数が生息していると考えられていたが、2009年11月に少なくとも数千匹と思われる大群集が海洋研究開発機構などによって発見され、また、2010年にはカイレイフィールドから700km以上離れたソリティアフィールドで、硫化鉄を含まない白い個体群が見つかっている。
これらの発見は、硫化鉄の鱗を形成する仕組みやその進化の過程を解明する手がかりになると見られている。
新江ノ島水族館(神奈川県藤沢市)では、2006年3月から世界初となるウロコフネタマガイの標本展示を行っている(写真)。
また、おたる水族館(北海道小樽市)では、特別展「深海」(会期:2015年3月21日〜11月29日)でウロコフネタマガイの標本展示を行う。
ウロコフネタマガイ(Crysomallon squamiferum) | |
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分類 | ネオンファルス目ネオンファルス科 |
殻径 | 約4cm |
生息地 | インド洋の深海底。アフリカプレート・オーストラリアプレート・南極プレートが接するロドリゲスセグメント付近 |
見学スポット | 標本が新江ノ島水族館(神奈川県藤沢市)で展示されている。 |