瀬戸内海にたたずむ、奈良時代以来の「海の駅」[室津(室津海駅館・室津民俗館)]

室津

 瀬戸内海に沿って兵庫県の海岸線を西へ向かう。加古川市から姫路市にかけての播磨臨海工業地域を過ぎると、急に、自然に満たされた海岸線が広がっていく。
 室津はそのような所に位置する港町だ。
 緑濃い半島によって三方を山に囲まれ、抱き込まれるように奥まで入り込んだ入江は、いかにも天然の良港という感じで、カレイ、シャコ、イカナゴなどを水揚げする小型の船舶が出入りしている。港の脇の突き出した岬の上には賀茂神社が建つ。

室津

 なんの変哲もない小さな港町だが、その歴史は奈良時代にまでさかのぼる。それもただの漁港ではなく、摂播五泊のひとつに定められた海上交通の要衝だった。
 おそらく、大陸へ向かう遣唐使船は何日もここで天候が回復するのを待ったことだろう。中世になると「室津千軒」と言われるほどの賑わいを見せた。
 近世には、西国大名の参勤交代や朝鮮通信使(室町〜江戸時代に来た朝鮮の外交使節団)の宿場町として繁盛した。
 今は小さな漁港であるが、室津は日本の歴史を海から見続けてきた。日本史における「道の駅」ならぬ「海の駅」だったのだ。

賀茂神社

 このような港町なので、神社仏閣の由緒も深い。いかにも港を見守るという感じで岬に建つ賀茂神社を参拝する。室津は古くから京都上賀茂神社の神領だったため、その別宮として建てられたのが起源だ。
 ソテツの群生林や慶長2年(1597)築の本殿がある境内を越えると、岬の突端にでる。海の向こうには唐荷島と呼ばれる3つの島が浮かんでいる。

室津(賀茂神社境内からの眺め)

 室津の漁師たちがお祓いを受けるときは、船でこの岬の先端まで漕ぎ出して海上でお祓いを受けたという。
 とはいえ、流れのある瀬戸内海のこと、お祓いが終わるまで船を静止させていられるかどうかが、漁師として腕の見せ所だったそうだ。
 決して広くはない港町の中にも、法然(1133〜1212)ゆかりの浄運寺や、平安末期の毘沙門天像を寺宝とする見性寺など、多くの寺が建ち並び、歴史を感じさせる。

室津民俗館

 明治になって参勤交代がなくなり、また、高速の蒸気船などが登場したことにより、宿場町としての室津はその幕を閉じる。しかし、江戸時代の本陣や町家は、戦後に至るまでまだ残っていたという。
 だが、それらの建物も昭和40年代を境に、老朽化により相次いで取り壊されていった。現在、本陣はすべて姿を消し、わずかに脇本陣だった豪商の屋敷2軒が資料館として残っている。
 それが、室津海駅(かいえき)館と室津民俗館だ。

室津海駅館

 室津海駅館は、廻船問屋の豪商「嶋屋(三木家)」の、室津民俗館は海産物問屋の豪商「魚屋(豊野家)」の屋敷だ。
 海駅館には、港の歴史や朝鮮通信使、諸大名の往来の記録がある。大名や朝鮮通信使が逗留したときに食べた料理というのが、模型で展示されているところがいかにも船泊の歴史を持つ町らしい。
 ここでは、見るだけではなく、これら大名や朝鮮通信使が食べた供応料理を実際に食べることができる。

室津海駅館の「朝鮮通信使饗応料理」

 写真は「朝鮮通信使饗応料理」(3000円)。天和2年(1682)、5代将軍徳川綱吉の時にやってきた通信使を室津でもてなしたときの献立のうち、「三の膳」を文献から再現したものだ。
 クルマエビと焼きアワビ、鯛と雉肉のなます、かばやき、鯛の汁物、ナマコの和え物、奈良漬けの香の物など。手間のかかる特別な料理なので、要予約で5人以上から受け付けている。提供は冬期の11〜4月まで。
 このほか、大名料理「御上御献立(おかみ・おんこんだて)」(1500円)もある。薩摩藩主が泊まったときの料理をアレンジしたものだ。

室津海駅館

 博物館とか民俗資料館で、昔の料理を実際に食べることができるというのは珍しい。
 昭和40年代以降、町並みが変貌しつつあった室津だが、1990年代から町並みの保全と地域の歴史を掘り起こす取り組みが続いている。この供応料理の提供も、そのような活動から生まれてきた。地域の人たちの熱意を感じさせる。

浄運寺@室津

 資料館を出て、入り組むように細く曲がった道を歩く。ふと見上げると、民家の2階に干物が干されている。軽トラックが窮屈そうに走り抜けていった。
 この道は、モータリゼーション到来以前のものだろう。道の広さも、港の大きさも、奈良時代からそんなに変わっていないのかもしれない。
 本陣は消えても、町そのものが記憶をとどめ続けているように思えた。

 

たつの市立室津海駅館・室津民俗館
住所 兵庫県たつの市御津町室津457(海駅館)
TEL 079-324-0595(海駅館)
開館 9:30〜17:00(月曜、祝日の翌日、毎月末日、年末年始休館)
入館料 室津海駅館・室津民俗館共通券 高校生以上300円、小・中学生150円
交通 山陽電車網干駅よりバス25分