熱帯植物と「渋谷の原風景」にふれあう[渋谷区ふれあい植物センター]
JR渋谷駅を東口に出て、明治通りを恵比寿方面に10分少々歩く。「東交番前交差点」を右に折れ、渋谷川を渡ると、マンションなどが建ち並ぶ一角に温室ドームが出現する。
これが、渋谷区ふれあい植物センター。清掃工場のゴミ焼却による発電を利用した渋谷区の室内型植物園だ。
温室ドームは1室のみ。入ってすぐに、椰子のように存在感たっぷりに茂っているオガサワラタコノキに出迎えられる。1メートルはあろうかという巨大な葉を付けたアンスリウムの原種も人目を引く。アンスリウムは園芸品種としてよく見かけるが、サトイモ科と聞けばこの葉のデカさも納得だ。
見事なまでのイエローに色づいていたバナナもぶらさがっていた。東南アジアのサンジャクバナナというらしい。
このほか、バオバブやヒスイカズラなど、熱帯植物を中心とした約200品種の植物が展示され、足元には水が流れ、せせらぎの空間が演出されている。
階段を2階へ上ると、温室ドーム内を眺めることができる休憩スペース(写真)がある。ここは無料の給茶器があり、植物を眺めながらお茶を飲むことができる。ただし、温室特有の熱気と湿気があるので、「ノートPC持ち込んで、南国気分で仕事を」という環境ではない。
それでも休憩コーナーでは、中学生ぐらいの男子が数人陣取って、熱気と湿気にも負けず、一所懸命カードゲームに興じていた。
2階にはほかに、図書や企画展示のコーナーがある。パネルでは、渋谷区による長野県飯田市との緑体験交流などの様子がレポートされていた。小学校にリンゴを植樹して、渋谷でリンゴを育てたりしているそうだ。
3階にあるハーブガーデン(写真)は、分譲マンションのちょっと大きめのベランダのようで、なんともアットホームな感じがしてよい。
1階ドーム内には、ホタルの郷と名付けられた和風エリアがあり、ささやかなせせらぎをのぞき込むとメダカの姿が見えた。
脇には、唱歌「春の小川」の展示コーナーもある。「春の小川」は渋谷区内を流れていた河骨(こうほね)川をモデルにしたという。スイレン科の水生植物コウホネが群生していたのがその名の由来。
作詞をした国文学者の高野辰之は、現在の渋谷区代々木3丁目付近に住んでいて、周囲を散策することを好み、唱歌「春の小川」の着想を得たという。
唱歌は1912(大正元)年に発表され、当初は文語体(♪春の小川はさらさら流る)だったのが、1942(昭和17)年以降、口語調(♪春の小川はさらさら行くよ)に改められたといった説明、さらに河骨川の古写真や、タナゴやメダカ、モツゴなど「春の小川」(河骨川)に生息していた生物の展示もある。
「春の小川」は渋谷の原風景であったのかもしれないが、肝心の河骨川は、1964(昭和39)年の東京オリンピックに向けての工事の際、暗渠化されてしまった。結局、唱歌の歌だけが残ったことになる。
このようなエピソードを聞いてから、館のすぐそばを流れる渋谷川を眺めると、なんとも言い難い気分にさせられる(それでも頑張って、ひと頃より水はかなりきれいになったとはいう)。
パンフレットに「都会のオアシス 癒しの空間」というキャッチコピーがついているように、駅近で手軽に熱帯気分が味わえる空間だ。
都心でいくつか、このような空間をおさえておくと、気分の切り替えに便利だ。コーヒーショップなどに入るのとはまた違ったリフレッシュができるだろう。
渋谷区ふれあい植物センター | |
---|---|
住所 | 東京都渋谷区東2-25-37 |
TEL | 03-5468-1384 |
開館 | 10:00〜18:00(月曜、年末年始休館) |
入園料 | 100円 |
交通 | JR山手線渋谷駅より徒歩12分 |
開館年 | 2004(平成16)年4月10日 |
ワンポイント | 園内ではホタルも飼育している。初夏には期間限定で「ホタル観賞会」を開催、温室内を飛び交う光景が楽しめる。観賞できるのはゲンジボタル、ヘイケボタルの2種類。2014年は6月下旬に5日間限定で夕方から夜21時まで行われた。 |